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幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

忘都譚

関連キャラクター:エルシア・クレンオータ

忘都譚Ⅰ:開明的なひと
「忘都先生は開明的なお人だねぇ」
 それが、某日に忘都――と名乗る月人(幻想種をこの土地ではこう呼ぶ)に向けられた評価だった。
 忘都はしばらくきょとんとしたような顔をして、それから困ったように笑う。
「そ、そうかい蔵人(くらんど)さん? 僕はそんな風に思ったことはないけれど……」
 けど、似たようなことを言われた覚えはあった。
「アスター、君は先を見すぎるな」
 そんなふうに、故郷の……ユーリオータ村では言われたものだったが。
 故郷ではある種の諫言だったそれは、新天地では褒め言葉として使われている。その事実に、忘都(または、アスターという)は逡巡を覚えたのである。
「だってよう、先生。ここに来てから何年になるか数えちゃいねぇが、あんたは俺達が知ってる薬草を俺達の知らねえ調合でお出しするじゃねえか。どころか『新しく出来てしまって』なんて自分でも知らねえうちに新しいものを作っちまう。ここ数年で先生は何人助けたんだい? わからねえよ」
「僕にとっては当たり前のことをしているだけだよ。それに自然は好きだし」
 ……自然に触れて、植物と向き合い、自分が幻想種であることを再確認していなければ気が狂ってしまいそうになる。
 ……蔵人さん、何人助けてもそれは他人なんだよ。僕は大事なものを助けられなかった愚か者だ。
「……好きこそものの上手なれ、はこの国の諺だったろう? 月人は只でさえ形見が狭いんだから、働かなきゃね」
 『アスター』として溢れかえった幾つかの本音を飲み込み、『忘都』は蔵人ににっこりと笑う。
 あと何年、生きるだろうか。
 あと幾人、救えるだろうか。
 あと何回、救えなかった後悔が肌身を灼くのだろうか。

 アスター・ユーリオータがこの思索を巡らせたのは、ちょうど。
 ……高天京が風雲急を告げた、数年前の夏の日のことである。
執筆:ふみの

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