PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

暖かな日々

関連キャラクター:ヴェルグリーズ

明けまして、これからも
「年越し、だね」
「そうですね。この一年も気が付けばあっという間だったような気がします」
「ふふ、そうだね。思い返せばずっと戦っていたような気がするよ」
「貴方と戦いは切っても切れませんから仕方ありませんわ。怪我をせずに帰ってきてくれたなら、より良いのですけれど」
「それは……キミだって人のことを言えないんじゃないかな? だってほら、キミは盾だから」
「うふふ。剣の貴方よりは怪我をするのに正当性があるかもしれませんね?」
 依頼が重なることがなければどうしてできた傷なのかもわからない。この間だっていくつも傷をつけて帰ってきた。その度に寝台でその身を包む布を丁寧に一枚一枚剥きながら、「今日はどこを怪我して帰ってきたの」「今日は少ない方ですよ」「じゃあ隠さなくたっていいよね」「あら、嫁入り前の女ですのに」「結婚指輪だってしてるのに?」「だって貴方、怒るじゃありませんか!」「キミが隠すから」なんてやりとりを重ねては、傷ひとつひとつに甘く深いキスを落とすのを繰り返していた。
 重傷を重ねたときなんて傷口に布がへばりついているから、むしろ隠させる方が治りを遅くしそうで嫌だった(ただし、これはお互いに)。
 当事者になれば心配させたくないと隠してしまうのに、傷を暴く側になったのなら隠すことを許さないなんてあんまりにも都合がいいのではないか。なんて理性的に考えられる段階だったのならば、二人が寝室を共にすることもなくて。ボクサーとバックレースをベッドの外に投げ捨てて、明日の洗濯当番がやや気まずい思いをするのを横目に睦言を重ねるのだ。
「新しい一年はどうしましょうね」
「心結におせちを食べさせてあげたいな。あとは空が餅つきをしてみたいって」
「あら、案外忙しくなりそうですね」
「そうだね。七五三とかも考えた方が良いのかな?」
「ああ、確かに。落ち着くなんてきっとまだまだ先ですわね」
「そうだね、子育ては奥が深いや」
「本当に」
 ちくたくと秒針が動いていく。すっかり寝落ちてしまった子供たちはもう布団の中で、薪ストーブがぱちぱちと音を立てるのを聞きながら悪だくみをするように語らって。
「あ、日付が変わった。明けましておめでとう、星穹」
「本当ですね。明けましておめでとうございます、ヴェルグリーズ。今年もいい一年になるといいですね」
「ならないならそうなるように運命を切り拓くんだよ」
「貴方がそういうとなんだか深いですね」
 くすくす笑う星穹の唇をヴェルグリーズが塞いだ。仄かにコーヒーの苦みがする。
「どうしてキスをすると、舌を絡めていないのに味がわかるんでしょうね」
「どうしてだろう。そういう星穹の唇は甘いね」
「だって私はミルクティーですもの」
 持ち上げたコップの中で柔らかく揺れる紅茶色の水面。そういえば、と思い出すようにヴェルグリーズが呟いた。
「俺、まだシャイネンナハトの贈り物を返していないよね?」
「ああ……別に、構いませんのに。どうせなくったって、こうやってするでしょうし」
「はは、それもそうか。したくなったときの口実に良いと思ったんだけどな」
「今更口実なんて不要な仲では?」
「それもそうかも。じゃあ、星穹」
「はい?」
「新年二回目のキス、しようか」
「ふふ、構いませんよ」
執筆:

PAGETOPPAGEBOTTOM