PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

妖怪の見る夢

関連キャラクター:鏡禍・A・水月

鏡よ鏡。
 その謳い文句で始まる物語を聞いたことがある者もいるかもしれない。そして今、鏡禍とクウハの目の前には。

「こいつが例のカ?」

「そうみたいですね。」

 とある境界に、それはあった。

「こいつは別に悪さする奴じゃネェんだロ?」

 頭の後ろで手を組み、近くの壁にもたれかかるクウハの言葉に振り返ることなく、鏡禍は一歩前へと歩みを進め、鏡にそっと手を触れる。

「それを調べるために、僕が呼ばれたんですよ。」

 そう。正体不明の魔鏡を調べるのに同じ鏡の怪異という、これ以上の適任者はいない。
 触れた手から力を通す。同類であるクウハにはその流れを見ることができる。

「相変わらず、おとなしそうな顔して、えげつネェ色してんナァ。」

 ただの世間話のように話すその言葉には悪意もなく。鏡禍も、彼に言われた言葉に気分を害することはない。彼らは同類であり、気のおけない仲だから。
 だりぃナァ。さっさと帰ろうゼ。なんて後ろで愚痴を零し、しまいには鏡禍の頭の上に顎をのせてみたり、背中で寄りかかってみたり。さすがに膝かっくんしようとした際にはスッと避けてみせると、「鏡禍のクセにヨ。」と楽しそうに笑ってお尻に蹴りひとつをいれてきたけれど。

「もう、仕事ですよ? まぁ、大体はわかりましたから。クウハさん、ちょっと鏡の前に立って見て下さい。」

「ん? オウ。」

 鏡禍が場所をあけ、クウハを誘導する。仕事における鏡禍のクソ真面目さを知るクウハは、こいつが言うなら大丈夫だろうと、パーカーに手を突っ込んだままのやる気のない様子で、無警戒に鏡の前へと立って見せる。

「んで、どうすりゃ……あン? こいつァ……」

 鏡に映るのは、パーカー姿の男ではなく。長髪で目の隠れた性別不詳の人物に、骸骨、白い羽の美しい女性、ラッパを手にした浅黒い男性。他にも何人かの姿が見える。

「この鏡は、映した人物に縁深い人物たちを映し出すものみたいです。そこに、特別鏡の意志はない。彼(鏡)には自我もありません。」

 鏡禍の説明を聞かずとも、クウハには映しだされた面々を見て察するものがあったが。

「クッソつまんネェ鏡だな、ったく。」

 そう言って、さっさと鏡の前から離れてしまう。自分の縁者、人間関係を露にされるなど、あまり気持ちのいいものではないだろう。

「しいて言えば、恋人とか特定の相手のいる人が立った時に、その人以外の人が映し出されてしまうと、トラブルのもとかもしれませんけれど、それ以上でもそれ以下でもない、といったところでしょうか。」

 なんのことはない調査だったな。そう思いながら、鏡禍は今一度、鏡の前に立つ。そこには先程も、今も。ましてやクウハが立った時も。自分の姿が。そして、自分の縁深い人物が映し出されることもない。当然だ。自分は、そういう怪異だから。けれど、なんとなく寂しいものもある。自嘲気味に息を吐く鏡禍の背中に、いつの間にか戻ってきていたクウハの足裏がおしつけられる。

「なぁにセンチになってんだよ。」

 だから汚れるじゃないですか。そう笑って返そうとした時だった。「おい。」そういって、突然肩を組むクウハが、肩越しに鏡を指さす。

「誰か映ってんぞ? こいつァ、俺のじゃネェな。誰だ?」

「え?」

 視線を上げたその先。鏡の奥からゆっくりと近づいてくるそれは。
 ウサギの人形を手にしていて。

 ――ダーリン。妾の可愛い鏡禍。

 声が、聞こえた。
執筆:ユキ

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