幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
よろずな日々
よろずな日々
関連キャラクター:ヴェルグリーズ
- 空の世界で
- 空を歩く。明るく見えるあれは太陽かな。
「いいや、月だよ。月が明るいから太陽も明るいのだと言う」
知っているような、知らないような。そんな声が頭に響いた。
そのまま宛もなく色んな天気にしょっちゅう変わる空を歩く。
不思議なのはどんなに天気が変わっても自分には何も影響がないこと。
雨が降っても、濡れない。
雪が降っても、寒くない。
太陽がかんかん照りでも、暑くない。
風が強く吹いても、倒れない。
他にも音のないまま迸る雷。
衝撃がないまま、落ちてくる雹。
そんな不思議な世界を、歩いていた。
でも。一番不思議で怖かったのは。
ーー誰にも会わないこと。
どんなに歩いても、どんなに走ってみても。
ーー誰の姿も見えなかった。
声を出してみようと、口を開いたがどういうわけか、言葉が出てこなかった。
ちょっと怖かったけど、地面を叩いてみた。
それでも、なんにも起きない。
そう言えば、壁もないな。
誰もいない。壁も言葉もない。
ーーいったい全体、誰の世界だろう。
仕方がないから、何かがあるまで歩き続ける。
空を歩いているからか、足音もなんだか不思議だ。
ぱぺぇ、ぽぶう、ぷあはあぅ。
裸足なのに、そんな音がする。
そんな音なら自分から発することが出来て、言葉は出ない。
ーーもしかして、この気が抜ける音でコミュニケーションをとれってこと?
もしそうならと、だれかいる、と足踏みをその場でする。
すぐに気配が生まれて、ぺっぺぶぅ、という音がどこからか返ってくる。
それが、とてつもなく嬉しかった。
音のした方へ走り出して、どんどん足音を鳴らす。
気の抜ける音だと思ったが、それがまた楽しくて良かった。
そして。そしてついに、影を見つけた。
自然と口が開いて、出なかったはずの言葉が出ていきそうになる。
…
……
………
…………
……………
目を開けたら、いつもの寝室だった。
どうやら、かなり不思議な世界で放浪する夢を見ていたらしい。 - 執筆:桜蝶 京嵐