PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

あーまでるこれくしょん

関連キャラクター:アーマデル・アル・アマル

傷跡
「だ、弾正……」

 アーマデルは狼狽えながら目の前に立つ男を見上げた。包帯だらけの身体を隠す様に、街灯の灯りの下から抜け出そうと後ずさる。
 ぐるぐると頭の中で廻る思考。なんで、どうして。――重症を負っただなんて、ただの一言も伝えていないのに。

「もしかして、イシュミルから聞いたのか?」
「逆だ、逆。アーマデルの情報が何も入ってこないし、連絡をしても返事がないしで『何かあった』と察しただけだ」

 距離を離そうとした分つめ寄られ、金の双眸が赤の双眸とかち合う。アーマデルは感情をあまり顔に出さない。出せない、というのが本当のところだが、それでも付き合いが長くなると感情を探る手立ては増える。彼の声音から心の機敏を読み取って、弾正は少し困った様に眉を寄せた。

「どうして距離を置こうとするんだ? 俺も君も闇に生きる者同士、明日を生きる事すら奇跡だと覚悟ぐらいはしている」
「それは、俺も……だが」

 アーマデルの右腕が脇腹を庇うような仕草をした事を、弾正は見逃さなかった。腕を掴み、その下に見える包帯に滲む血を見て目を見開く。

「アーマデル、その怪我は……!」
「そうだ。大喧嘩をして平蜘蛛にぶち抜かれた事があっただろう。あの傷の上から――」
「血が滲んでいるじゃないか、新しい包帯に変えないと!」
「弾正? ちょっと待ってくれ、おい……!」

 教義と友情の狭間に揺れた感情をぶちまけて殺し合ったあの日から、もう一年が経つ。
 本音で語り合えたから、今こうして親密な仲になれていると理解しているからこそ、特別な傷だった。忘れたくない傷だった。
……少なくとも自分はそう思っているのに、自分を抱き上げて慌てるばかりの弾正は、そうでは無さそうだ。

「怒らないのか?」
「傷は戦士の勲章だ。怒る理由がない。それに――」

 ふいに重なる唇が、意識を全て持っていく。

「傷よりも深く、アーマデルの心に残る術を知っているからな」
「弾正……そういう台詞は、顔を見て話せ」
「い、いいからイシュミル殿の所へ行くぞ」
執筆:芳董

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