PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

サイボーグ

関連キャラクター:チャロロ・コレシピ・アシタ

心を一つに
 放課後の教室はがやがやと騒がしい声で満ちていた。クラスメイト全員が教室に残っており、それぞれが発声練習をしたり、暗記するために歌詞をぼそぼそと呟いている。クラス対抗の合唱祭まで後一週間ちょっとであった。
「上手く合わないからパート別での練習をもっとしようよ」
 指揮者になったクラスメイトの提案にチャロロ・コレシピ・アシタはソプラノ担当の生徒たちのもとへと駆け寄る。男であるものの、サイボーグであるこの身は幼い頃のまま成長を止めている。未だに高い声を出すチャロロは自然とソプラノパートを担当することになったのだ。
 奇麗な高音が教室に響き渡り、チャロロは声を張り上げながらクラスメイトを見る。みんな真剣な表情で精一杯口を開けている。チャロロも絶対みんなで勝とうと心に決めながら張り切って声を出す。
 そんな中、一人の少女だけが俯いているのをチャロロは見た。体は少し震えていて手はぎゅっと握られている。
「大丈夫? すごい辛そうにしてたよね?」
 練習が終わりみんなが帰りの支度を始めたところで、チャロロはさっき震えていた少女に声をかける。無口な子で関りはあまりなかったが、あの姿を見て見ぬふりなどできなかった。
「あっごめんなさい。なんでもないの……」
「本当に? 何か困ったことがあるなら、オイラにできることは何でもするよ」
 その言葉に、少女は少し考えるように首をひねると協力してほしいことがあるとチャロロに告げた。

 放課後の練習から数時間後、チャロロたちはカラオケで歌の練習をしていた。とは言っても歌うのは主に少女の方でチャロロは聞くのに徹していた。
「さっきのところどうだったかな?」
 少女は苦手なパートを歌い終えると、顔を液晶画面からチャロロへと移す。少女の頼みとは歌の練習に付き合ってほしいというものだった。
「うん、すごくよくなったと思うよ」
 少女は昔から歌が苦手らしく、最初の方は声も不安げでか細かった。しかし、次第に緊張が解けて来たようで、今ではだいぶ声も出ている。それがまるで自分のことのように嬉しかった。
 少女はよかったと胸をなでおろす。そして、時計を見て慌てて口を開いた。
「こんな遅い時間までごめんね」
 その言葉にチャロロは全然気にしないでと笑顔で手を振る。そして、ふと気になったことを尋ねた。
「きみはどうしてこんなに必死に練習してるの?」
 クラスメイトの中に歌が苦手な人はそれなりにいたはずだ。だが、彼女ほど多くの時間を割いて練習している人をチャロロは他に知らなかった。
「みんなの仲間になりたいからかな」
 少女はゆっくりと話を始めた。
「私は歌が一番下手だから、誰よりも頑張らないと。そうやって自分の力でみんなに追いつけた時、私はきっとみんなの仲間になれると思うから」
 その言葉を聞いてチャロロは少し胸がざわつくのを感じた。それは一つの疑問。自分のこの声は自分の物なのかということだった。チャロロの体はサイボーグだ。自分は自然に歌えていたが、それはもしかすればこの身が機械だからなのかもしれない。
 今まで意識もしていなかった考えに、次第に頭は不安な気持ちで埋まっていく。普通の人は出来ないことがあった時、彼女みたいに必死に挑戦する。何度も壁にぶつかりながら試行錯誤して成長していくのだ。
 しかし、自分はどうだろうか。今後そういった成長ができるのだろうか? 機械仕掛けのこの体が成長することはない。そして自分の持つ力はサイボーグの体に由来するものが多い。力の強さや頑丈さは、生身の体で努力して身につけたものではない。
 そう考えていると、ふと気づいてしまったのだ。自分は普通の人間とは違う存在であることに。その寂しさにチャロロは強く手を握る。
「大丈夫?」
 急に黙ったチャロロを見て心配になったらしく、少女はチャロロの顔を覗き込む。チャロロは心配をかけないようにと無理やり笑顔を浮かべる。だが、一度生まれた寂しさはまだ消えずに頭の中に残っていた。

 放課後の練習や少女との練習を繰り返し、とうとう合唱祭の日になった。クラスメイトはみんな顔を輝かせて、頑張ろうと意気込んでいる。
 チャロロもそんなみんなにまざり、笑顔で声をかける。だが、気づくと自分は人間ではないという考えが頭に浮かんでしまう。そのたびにチャロロは首を振って合唱祭に集中しようとしていた。
 他のクラスの発表が終わり、とうとうチャロロたちのクラスがひな壇に上がる。クラス全員で話し合って決めた位置取り通りに立ち、練習の時にいつも横にいてくれた友達と笑顔をかわす。
 チャロロの隣は一緒に練習したあの少女だった。チャロロは無理やり笑みを浮かべて頑張ろうねと声をかける。
 そして、とうとう歌が始った。ピアノの優しいメロディーにクラスメイトの歌声が重なっていく。練習の時はばらばらだったソプラノとアルトが一つに合わさり美しいはもりを作る。クラスが一つになった瞬間だった。
 それが嬉しいはずなのに、チャロロの中で同時に寂しさも膨れ上がる。クラスみんなが一つになっている中、人間でない自分はその中に入れているのだろうか。この機械仕掛けの声はみんなの音と一つになっているのだろうか。
 長い伴奏が始った。チャロロは気持ちを切り替えようと胸を張る。そんな時、横の少女がチャロロの手を優しくつついた。少し驚きながらもチャロロは首を横にやる。そこには少女の笑顔があった。まるで一緒に歌えて楽しいというような屈託のない笑顔だった。
 伴奏が終わりチャロロは再び声を出す。その声にはもう迷いなどなかった。最後まで全身全霊で歌いきる。自然と温かな気持ちが胸に広がる。
 自分たちの歌が終わり、チャロロはクラスメイトと共に舞台袖にはける。
「すごく楽しかった。チャロロの優しい気持ちが私に力をくれたからだよ。ありがとう」
 少女の笑顔にチャロロは強く頷いた。やっとわかったのだ。確かに自分の体はこの先成長しないだろう。この先、みんなとの違いはきっと生まれ続ける。
 しかし、そうじゃないものもある。確かに自分のものと言えるもの。チャロロの心は他の人たちと一つになることができる。この体がみんなとの差を作っても、心だけはずっと繋がっている。
 チャロロはクラスメイト達とハイタッチする。その軽やかな音がいつまでも耳に残り続けた。
執筆:カイ異

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