幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
サイボーグ
サイボーグ
関連キャラクター:チャロロ・コレシピ・アシタ
- オイラはオイラのままでいい
- チャロロはときどき、ふとしたときに寂しさのような、ぼんやりとした不安のような感情を抱く時がある。
そういうのは決まって周りの人間と自分とを比較したときだ。
同級生は16歳らしい年頃の体つきをしているのに、自分だけは10歳ほどのままで成長が止まっている。
機械の体なので仕方ないと言われてしまえば、それはそう、仕方のないことだ。
周囲はそんなチャロロを受け入れてくれるけれど、ふとしたときに思ってしまうのだ。
――自分は他の人間と同じにはなれないのだ、と。
そんなことを、体育の時間、運動場でサッカーのディフェンスをしながらボーッと考えていた。
試合はチャロロのチームが優勢で、彼の出番は今のところはない。
たとえチャロロに出番が回ってきたとして、彼の機械の足でボールを少し蹴るだけでゴールネットにたやすく届くだろう。
それを相手チームは「チャロロがそっちにいたら勝てるわけないじゃん、ズルい!」と泣き言を漏らしていた。
(オイラ、力の加減を間違えたら誰かに怪我させちゃうかも……)
自分は周りの人間とは違う。
周囲が年相応に老けていく中で、自分はやはり10歳の姿のままなのだろう。
機械の体に死は存在するのだろうか?
同級生の墓の前でちっとも変わらない姿のまま、立ち尽くす自分を想像すると背筋に寒いものが走る。
そんな先のことを考えても仕方ないとはいえ、怖いものは怖いのだ。
再びボーッと思案に暮れていると、不意に運動場に悲鳴が響いた。
ハッとして声のする方を見ると、大型の獣が同級生に襲いかかろうとしている。
(魔獣!? なんで、こんなところに……!?)
ライオンほどの大きさの魔獣は、口からよだれを滴らせながら、牙をむき出し、逃げ遅れた同級生に食らいつこうとしていた。
チャロロはとっさに近くのカゴからサッカーボールを取り出して、魔獣に向かって蹴り飛ばす。
「オイラの友達から離れろ!」
ボールは勢いよく飛び出し、魔獣の横っ面を直撃した。
怯んだ隙に、同級生に駆け寄り、「早く逃げて!」とかばう。
その刹那、怒り狂った魔獣の爪がチャロロの胴体を切り裂いた。
服と人工皮膚が剥がれ、機械の体が露わになる。
「――ッこの!」
しかし、チャロロの硬質な体は、逆に魔獣の爪を折ってしまっていた。
魔獣はそれでも彼を喰らおうと腕に噛みつく。
だが、チャロロは腕すらも機械。魔獣の牙も粉々に折れた。
「いい加減にしろーッ!」
チャロロは魔獣を殴り蹴り、完膚なきまでに叩き潰して討伐したのである。
「大丈夫? 怪我はない?」
チャロロが腰を抜かした同級生に歩み寄ると、彼らは一様にぽかんとしていた。
(あ……)
チャロロは自分の状態を見て察した。
機械部分が露出した体。
人間のものではない体。
それをまざまざと見せられて、戸惑わない人間はいないだろう。
(……やっぱり、オイラは他の人間のようには……)
思わずうつむいてしまったチャロロに浴びせられたのはしかし、彼の予想外のものだった。
「やっぱ、チャロロってかっけぇ……」
「え?」
「すげぇよ、そんな小さな体であんな凶暴な魔獣に立ち向かって、勝てちゃうんだもん」
「ち、小さい体は余計だよ!」
ムキになって反論するチャロロに、同級生たちは朗らかな笑い声を出す。
「それにさ、その体かっこいいじゃん。まさにヒーローって感じ」
「……みんなは、怖くないのか? オイラのこと……」
「ぜーんぜん?」
「どのくらいチャロロと付き合ってると思ってんだよ!」
同級生たちがあっさりとした口調でそういうものだから、チャロロはなんだか調子が狂った。
(……でも、そっか。機械の体でも、みんな受け入れてくれるし、機械じゃなかったら、友達を守れなかったもんな)
チャロロはノートとペンを取り出し、書き込む。
『オイラは、オイラのままでいい』 - 執筆:永久保セツナ