PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

妖怪の筋トレ日記

関連キャラクター:鏡禍・A・水月

キミを映す鏡になりたい

 水月鏡禍の気持ちは実り、恋人という立場で赤い髪の少女の隣にあれるようになった。
 彼女はいつも明るくて、話し上手で、つい躊躇って足を止めてしまう鏡禍の手を引っ張って新しい世界を見せてくれる人だ。彼女が笑えば鏡禍も嬉しくて、後ろ向きだった――彼女を諦めようとすら思っていた自分が嘘のように、鏡禍も嬉しくて幸せになる。
 そんな彼女の笑顔を守りたいと思った。男として、恋人として、彼女の心も体も守りたい。
 けれど悲しいかな。彼女が自分よりも色々な意味で強い人であることを、これまでの付き合いから鏡禍は痛いほど知っていた。鏡禍が弱いことを彼女が気にしない事も知っていた。
 けれどそれじゃ駄目だと、鏡禍は思ったのだ。
 以前の鏡禍だったら、きっとこんなこと思わなかったはずだ。
 体を鍛えよう、だなんて。
 彼女に格好良いって思われたい、だなんて。
 水着を着て撫でた自身の胸は悲しいほどに薄くて、泣きそうになる。
 せめて、隣に立っても劣らない自分になりたかった。
 だから、そう。

 ――そうだ、筋トレしよう。

 筋肉は裏切らない。筋肉は一生の友。
 そんなフレーズを聞いたことがある。
 そう、筋肉は裏切らないのだ。筋トレを続け、完璧な体を手に入れれば、きっと彼女の視線も釘付けだ。
 幸い練達へと赴けば、筋トレの資料に事欠かない。筋トレを勧める本は沢山あるし、インターネットで検索をすれば動画で正しい姿勢も、どれくらいやればいいかも、簡単に知ることが出来る。
 そうして筋トレを始めた鏡禍だったのだが……既に様々な理由から何度も挫折しかけている。
 まずは定番の腹筋をしてみようかな、なんて思った自分が浅はかだった。
 流し見た動画ではインストラクターの男性が気持ち良い笑顔で「10回を1セット。これを3セットしましょう」と言っていた。つまり、30回だ。30回。あまりにも男性が笑顔のまま「息を吸ってー吐いてー、息を止めないでー、いいですねー」と話しながらやるものだから、鏡禍もなんだか「結構楽なのでは?」なんて思ってしまった。間違いだった。実に浅はかだった。
 いざ! と地に手を付いて四つん這いになり、片足ずつ足を伸ばした。
 正直に言おう。それだけで腕が震えた。
 えっ、まさかそんな……と鏡禍は驚愕した。
 それでも頑張って腕を曲げた。動画の中の男性は笑顔で行っている。動くと楽なのかもしれない。

 そんなことはなかった。

 曲げた腕は震え、そこから真っ直ぐに戻すことが出来ない。
 ぐっと顔面に力を籠めながら何とか体を持ち上げ、1回。
 筋肉を着けるんだ! と2回、3回……5回目には限界を迎え、地面と友達になった。悲しい。
 まさかこれ程までに筋肉がないとは――!
 鏡禍は密かに泣いた。
執筆:壱花

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