PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

妖怪の筋トレ日記

関連キャラクター:鏡禍・A・水月

トレーニングは正しいフォームで、ね。
 思い浮かべるのは、赤い髪の彼女。見た目は小柄で、華奢で、どこにでもいる女の子。……いや、あんなに可憐な女性は他にいない。少なくとも、僕がこれまで見てきた鏡の向こうの世界ではいなかった。
 そんな彼女がくれた甘菓子の味は、いまだに思い出せやしない。我ながら、男として、情けないなと思わずため息がこぼれる。

 せめて彼女を護れるくらい強くなれたら。不死性を宿した妖怪の自分なら、大抵の脅威から彼女を護れるはず。そう思っていたのに。

「かわいいだけじゃなくて、強いだなんて、反則ですよ……」

 そう。彼女は強かった。自分よりも1年以上長く特異運命座標として召喚され戦ってきた先達なのだから、仕方ないともいえるが……そこはそれ。男の子として、譲れないものもある。
 たとえば、依頼を受けにローレットを訪れるとたまに見かける、カウンターで欠伸を欠いているかの組織の主。一見だらしなさそうに見えて、その体躯は正直男の自分から見ても羨ましい。あれで特異運命座標じゃないというんだから、やっぱり反則だ。

 身長は……簡単に伸びるとは期待できない。たぶんそのことを言うと、彼女は笑って「そんなこと気にしないでいいのに」とか、「ちょうどいいじゃない」とかいうと思う。けれど、せめて筋肉くらいは……!!

 そう思い、動きやすい服装に着替え、いざトレーニングをしようと「よしっ!」と意気込んで鏡に向かった彼は。

「……あ。」

 自分が鏡に映らないということをうっかり失念していたのだった。
執筆:ユキ

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