PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

窓際族生存記

関連キャラクター:回言 世界

<瘴気世界>つめたくて、そして
●全部、その後の話
「あら、惨たらしく全員、殺してしまったのね。可哀想に」
「てめえが……てめえがそれしかねえって――」
 『水の精霊』アイルベーンは冷たい声色、冷たい表情で言い放った。
 その様子を目の当たりにした『境界案内人』ラナードは、彼女の首根っこを掴もうと手を伸ばすが、そんなことしても無駄だと知っていた世界はそれを制止する。
「確かに教えたけれど――私は教えただけで、決断したのは貴方たちよ?」
 なるほどなと世界は思う。そしてそれは、無意識に言葉となっていた。
「なるほどな、つまりお前は自分の手を穢したくないわけだ」
「何が言いたいの、人間」
 思わぬ槍槓が刺されば、アイルベーンでなくともムッとした表情になるもので。
 彼女の意識が世界へ集中するのへ、睨まれながらも世界はすまし顔で続ける。
「だってそうだろ。お前は自分が光の精霊に勝てないことを理解している、だからこそ見つかり難い海底神殿とやらに身を置いて、自分だけでも生き残ろうとした」
「黙りなさい人間、何も知らないくせに」
 そこまで世界が話したところで、憤慨したアイルベーンは彼に手を出した。
 虚無から生み出された水。まるで皮膚を切るような激流が世界に直撃したように見えたが、彼はその程度の虚仮威しで傷つくような軟な体はしていない。
「そこに現れたラナード君は闇の精霊の記憶を戻して、最終的には光の精霊を何とかしようとしている。だから利用しようとした。方法だけ教えて、お前自身は何もせずに」
「…………」
 図星なのだろう。矛を収め、口を噤んで何も言わないアイルベーンの表情がそれを物語っており、察したラナードは情けない表情を浮かべながら俯いた。
 記憶を失う前のオプスキュティオや、消失したイグニスヴールも中々癖のある性格だった。その二人も過去に冒険者を贄にしていた辺り、アイルベーンをそれより悪いなんて決して言わないが、伝承における『導いてくれた精霊』とは時間を経て誇張された表現なのではないかと思わざるを得ない。
「別に俺は怒っちゃいないさ。端からお前には何も期待してなかったからな」
「どこまでも生意気で、腹立つ男ね」
 けれど、世界にとってそれはどうでもよかった。
 問題は全部、その後の話。世界本人はそんなつもりないらしいが――世話を焼きに焼いて、観測し続けてきた"瘴気世界"という存在。そのターニングポイントと呼ぶにも相応しい盤面にて、自分の成した虐殺行為に意味はあったのかと問いかける。
「私が私を祀る国の民を無意味に差し出すと思うかしら。もし、オプスキュティオが自分の国を持ってたなら、迷わずそっちを襲わせたわよ」
 なら――そう喰い気味に聞こうとするラナードに被せるように彼女は続けた。
「言ったでしょう。貴方にティオの記憶を戻すことは無理よ」

 ――だって貴方は、今でも感情に振り回されているもの。
 ――そっちの物応じしない、からっぽな人間なら或いは、ね。
執筆:牡丹雪

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