PandoraPartyProject

幕間

窓際族生存記

関連キャラクター:回言 世界

アーユーワールド?
「そんで、仕事の内容は? 俺は何をすりゃいいんだ?」
 四方八方に広がる本の山。本の虫がその生涯をかけても読み切ることは叶わないだろう数の本が並んだ図書館で、回言 世界は気怠そうに問いかける。
 こうやってここに居るのは何度目だとか、最初はいつだとか――そういうことを考えることが煩わしくなるくらいには訪れているし、様々な世界を回ってきた。ぶっちゃけ境界図書館じゃ彼を知らない案内人はいないし、それは無辜なる混沌でも有名な話だろう。
「オプスk……ああ、この前の黒っぽい奴か。そいつがどうしたんだ?」
 欠伸をする世界は、如何にも“面倒くさそう”な態度だった。
 目の前で説明する境界案内人の話を聞きながら呑気に欠伸をしたり、眠そうな顔をしてみたり、或いは話が長くて近くのソファーへ座り込んで本当に寝ていたり……。
 “って寝てるし”、だとか“聞いてんのかお前”だとか、寝ている世界に茶々を入れる境界案内人もごく少数いたかもしれないが――まぁ、彼が顔色一つ変えないのは言うまでもない。
「っと、話終わったか? たく、相変わらず説明長いっつうか、心配性っつうか――ま、話は分かったよ。少し……いや、かなり面倒だが行ってくるか」
 境界案内人によって、描かれた御伽噺の様な世界が開かれる。
 よそよそしい様子の境界案内人へ後ろ姿で手を振った世界は、その世界――worldへと消えていった。
執筆:牡丹雪
幾千の物語
 境界図書館には様々な蔵書が所狭しと本棚に詰め込まれている。
 それは勇者が姫を救う王道の噺だったり、星座の神話だったりどこかの怪奇譚だったり。
 世界はぱらぱらと頁を捲る。ここの蔵書はあらかた読みつくしてしまった。
 否、正しく言えば「体験し尽くしてしまった」というべきだろうか。
 境界図書館に納められている書物は唯の書物ではなく、その書物の世界へ文字通り飛び込めるという代物だ。そして飛び込んだ先で依頼をこなす、という体で物語を体験することが出来る。
 そんな境界図書館に引きこもるのが世界の日常だった。
「お前さんくらいだぜ、そんなに境界図書館(ここ)に来るのはよ」
 蔵書の整理をしていた黒衣の境界案内人、朧ともすっかり顔なじみだ。
 その表情はいつも通り見えないが、きっと布の下では緩やかに笑んでいるのだろう。
「まぁ、性には合ってるかな」
 目線を躱すことなく世界は片手を挙げた。それを気に留める風でもなく朧は蔵書の整理を再開する。
「そういや……新しい依頼が入ったが、行くかい」
 漸く世界が書物から顔を上げ、朧に向き直った。
「――内容は?」
「そうさね――」
 こうしてまた世界は異なる世界への扉を潜ることになるのだ。
執筆:
世界はくるりと裏返る。或いは、異界の図書館…。
●異界図書館
 ずらりと並んだ本棚に、びっしり詰まった本の群れ。
 窓のない空間は、しかし不思議と一切の暗さを感じない。
「一体全体、ここは何処で“何”なんだ?」
 本棚に手を伸ばし回言 世界はそう言った。
 棚から黒い表紙の本を取り出して、ぱらぱらとページを捲る。
「表紙は皮か? タイトルも文字も知らない言語で書かれている」
 既に10を超える本棚を眺め歩いた。
 手に取った本は20冊を超えるだろうか。
 サイズも厚さもバラバラだが、共通してどの本も同じ言語で書かれたものだ。
 ただし、世界の知識には存在しない未知の言語だ。
 本の装丁から判断するに、どれも執筆されてから一世紀も経っていないだろう。つまり、遥か昔に失われてしまったどこかの国の古い文字で書かれた本……などということは無いはずだ。
「行けども行けども、本棚ばかり……そもそも俺はどこからここに入って来たんだったか?」
 もう少し警戒するべきだった。
 なんて、後悔しても手遅れだ。
 後で悔いると書いて“後悔”なのである。

 時刻は暫く巻き戻る。
 もっとも、世界の記憶があやふやなため正確にどれだけ前のことかは不明である。
 依頼で出向いたラサの辺境。
 古い部族が立ち上げたという遺跡をベースにした集落だ。
 依頼達成後、ふと集落を歩いていると寂れた小さな書店を見つけた。店員らしき者の姿は見えないが、ちょっと中を覗いてみれば辺境に見合わぬほどに多くの本が揃っていた。
 興味を惹かれ、世界は書店に立ち入って……本棚に視線を走らせながら、店の奥へと進んで行った。
 そして、気づけば世界は無限に続く本棚の間に立っていたのである。
 どれだけの時間、本を眺めていたのだろうか。
 外から見れば小さな書店だったはずだが、歩いた距離は明らかに長すぎる気がする。
 “引きずり込まれた”
 脳裏をよぎったその言葉。
世界は無意識のうちに「それだ」と思った。

 それから暫く。
 時間の経過を感じることは出来なかったが、少なくともさらに数十の本棚の前を通過し、100を超える書籍を手に取った。
 当然のように、どの本も読むことは出来ない。
 しかし、それだけの本を手に取るうちに、ある種の法則のようなものを見出すことが出来ていた。
 初めに世界が手に取った本と、つい今しがた手にした本では、紙の質や装丁に大きな違いがあったのだ。
 どうやら、奥へと進むほどに書かれた時代が新しくなっている。
「例えば……このまま先へ進み続けて、時代が“今”に追いついたとして」
 そこには何があるのだろう。
 そんな風な思考のもと、世界は再び歩き始める。

 そうして、世界はついに本棚の海を抜ける。
 そこにあったのは、ランプの置かれた木製のデスクだ。デスクの上には、辞書のようなサイズの本が置かれている。
 それから、紙の束とペンが数本。
「……“世界はくるりと裏返る”?」
 不思議と表紙に書かれた文字を判読できた。
 世界はこの本を知っている。
 きっと、読んだことがある。
 そして、そのことをすっかり忘れていたのだ。
「どういう仕組みか分からねぇけど……1冊でも読めるなら手の打ちようはある」
 席に腰かけ、ポケットの中から取り出した飴を口に咥えた。
 本を開いて、ペンを手に取る。
 きっと自分はこの場所から帰還できる。不思議とそんな確信があった。
 そして、元の場所に……ラサ辺境の集落に帰還したら、ここであった出来事の一切を忘れてしまうのだろう。
「さて、と。俺はこの本を読んで、どういった行動を取るんだろうな?」
 きっと何度も同じことを繰り返した。
 その度に元の世界へ帰還し、そして、またいつかこの奇妙な図書館へとやって来るのだろう。
 それはきっと、自分が未だに“回答”に辿り着いていないからだ。
 いつか、いずれ“回答”に辿り着けたとして……。
「その時、俺はどうなっちまうんだろうな?」
 なんて。
 咥えた飴を噛み砕き、世界は本の解読を開始するのであった。
執筆:病み月
臆病者への手解き
 年月を貪ったアイスクリームの如くに、莫迦げた液状を好んでいる。
 ノンブル、ルビを数えよ。
 タイプライターの軋む音が悲鳴に聞こえたのは気の所為ではなかった。戯言だけを紡ぐ、身勝手な空気に只事ではないとオマエはゴクリと呑みくだす。何処かから這入り込んできた何者かの臭気が、ぶつ、と粘膜を突き破るかのザマだ。回転流として見做された赤色のインクに適度な意味を持たせる。ああ、知っている。俺は理性と称した暴力で以て、この世界を認知している。並行して続く筆のアトを追いかけて決して、混迷とはいかないのだ――鏡面に映り棲んでいる何処かの化け物にヴェールを与える、そろそろ城壁から抜け出してきたら如何か。まるで怯えているのが、脅えているのが獣のように思える。濁り尽くした眼球にカトラリーを突き刺した事はあるか? あるわけねぇじゃねえか、クソッタレ――随分と口が悪くないか。これでは小動物だって逃げ出してしまう。
 境界産アーカムと呼ばれる世界を『捲った』のはひどく『正気じゃなさそうな』案内人に出会ったが故だ。ここは出遭ってしまったと表現するのが一番、最悪に近しいだろう。宇宙空間めいた頁に引き寄せられたのは事実で、覆せない本の虫の性質だが、幾らなんでも『罠』が過ぎるのではないか。病的な執着心を見せつけられたなら、魅せられたかの如くに焼け付く脳髄――面倒事に打ち当たったのだ、首を突っ込む他にない。
 絵に描いた虎とやらの方がきっと簡単に『引き摺り出せた』に違いない。先程から引き籠もっている、この世界の主人公とやらを連れ出さなければならないのだ。ああ、さもなくば、世界は停滞、エンディングを迎えてしまう――俺さ、アンタみたいな奴を見ると疼くんだよ。外の世界には美しいモンや愉しいモンがたくさんあるって知らねえのか? 嫌われモンには嫌われモンの『オモシロサ』ってのがあんだよ――同類だ。俺と『これ』は結局のところ、忌々しいほどに同類なんだ。夢想と現実の狭間で虚構に塗れている……。
 ――ゴツゴツと、荒々しく、されど護謨質な掌を、うすれ硝子に突っ込む。頸を左右に揺らしているナニカを境界跨がせ『惹き』寄せた。送り迎えをする気などmmもなかったが、何もかもは気分次第だ。なあ、少しは感謝してくれよ、貧乏籤を貰ってやったんだ。
 感涙、遠吠えが城内に反響していく。廃れ、くされの中心で冒涜的な所業に没頭した。アウトサイダーの頭垂れに主は眼鏡を曇らす。
 ――妖精さん、妖精さん、地下に書斎が在るのです。
 噫、其方側に身を浸すのも悪くはない。
 コツン、コツン、五体投地――山と積まれたハード・カバー、螺旋つむぐ文字列。
 よろしく。
執筆:にゃあら
ひといき
「あ、世界だ」
「そういうカナタは……最近元気だったか?」
 境界図書館をのんびりと歩いて居た世界が見慣れた銀髪を見つける。運良く振り返った男は、瞬いて。
「なんだかこうやってはなすのも久しぶりだよね」
「そうだな。お前のところがなかなか開かなかったのもありそうだが」
「まあね。未曾有の大災害ってやつだよ」
「ほう。あんなに元気だと女王は言ってた気がするが」
「あんなの建前だよ。ひとの……俺達の暮らす世界で、大雨が降り続けてね。妖精たちも飛べなくて、暫くは籠ってたのさ」
「ふーん……」
 助けを求められなかった、ということはイレギュラーズの力は不必要だったのだろう。あるいは彼らの力を借りてでも、どうしようもなかったか。
 やれやれと肩を竦める。
「まあ、ひとの世界から求めたって良かったんだけど。俺達の物語は妖精が主役だからね」
 と、カナタ。あくまで我々は登場人物に過ぎないのだとせせら笑った。
「お前たちだって生きてるんだから、お前たちの人生にとっちゃ各々が主役だろ」
「そうだけどね。運命ってやつは皮肉なんだ」
「やれやれ、胃薬が足りないな」
「本当にね!」
 困ったように笑うカナタの顔は晴れやかで。だからどうしようもないのだと、口のなかを転がしていた飴を噛み砕く。
 胸中に僅かに残った蟠りのように消え失せることのない飴の欠片。
「で、今日はどうして此処に居るんだ」
「ま、たまには仕事から逃げ出してやろうかなって」
 こいつはなかなかいい性格をして居る。
 苦労人枠とはいえ、魔法剣士であるカナタはそれなりに腕も頭もたつ切れ者。
 そんな彼が仕事を沢山抱えているのはもはや日常茶飯事。文句はこねようとも、大人しくしたがっていたはずなのに。
「珍しいこともあるもんだな。逃げるなよ」
「仕事を真っ先にサボりそうな世界には言われたくないけど?」
「否定はしないな。よし黙っててやろう。その代わり甘味を奢れ」
「やれやれ、困ったなあ」
 とは言いつつも手招き、物語の扉を開く。
 境界案内人としての力を与えられたカナタが繋いだのは、彼の世界ではなくなんてことない物語のひとつ。
「へえ、こんな世界があったのか」
「そうだね。お茶が飲めるんだよ、それも美味しい」
「ほう、それはいいな。今度開いてくれ」
「機会があったらね!」
 慣れた素振りで注文をする。此処のおすすめはパンケーキなのだと知っている辺り、きっと職権乱用で何度か此処に来ているのだろう。
「どうよ」
「うまい。特に、他人の金で食う甘味はな」
「仕方ないなあ……」
 コーヒーとガトーショコラを頼んだカナタ。遠慮なく追加で注文をする世界。
 異世界の果てでちょっと一息。そんな幕間。
執筆:
ティー・ポットにお砂糖を
 ――まずティー・カップの紅茶に満月を映して、お砂糖をひとさじ加えます。
 ――次に満月を溶かし込むようにティー・スプーンを時計回りにひとまわし。
 ――お願い事を3回、唱えれば。

「願いが叶うでしょう、ってか。おまじないってやつかよ」
 ぱたむ、と本を閉じれば回言 世界はため息を一つ吐いて紅茶を啜った。そして顔をしかめる。
 境界図書館にあった妙にスピリチュアルな本を借りてみれば、それはどこかの世界の妖精が行うようなおまじないの手順が記されていた。
 ありがちといえばありがちだが、何処の世界でも「自在に願いを叶える」というゆめには事欠かないということなのだろう。
 もしも、願いが叶ったら。
 呪いのように外れないカチューシャを外せるのかもしれないし、眼鏡が割れないようにできるのかもしれない。
「ああ、甘いものを目の前にどーんと出してもらうのも悪くないな……」
 そんなことを考えながら紅茶をもう一口。そしてやっぱり顔をしかめる。

 おもむろ世界は立ち上がると、テーブルの脇にあった砂糖を掬ってティー・カップに――ではなく、まだ紅茶の残るティー・ポットにひとさじ、ふたさじ、みさじ……ごさじほど入れたところでくるくると反時計回りにかき混ぜる。
 白い砂糖が紅茶の橙に溶けていく。
 ふわりと立ち上る紅茶の匂いに甘ったるさが加わったところでティー・ポットの中身をどぼどぼとカップに追加。
「うん、いい味だ」
 すっかり甘ったるくなった紅茶を啜って満足そうに声を漏らす世界。
 ああ、結局おまじないだなんだというけれど。
 ティー・カップに砂糖ひとさじだけなんて苦すぎるに決まっている。

 満月のない暗い空に、ティー・ポットいっぱいの砂糖で喉を潤し、願いごとは唱えない。
 それでいい。
 今願うことがあるとすれば、この退屈で騒がしい、平凡で非凡な、どうしようもなくてそう悪くない世界を謳歌すること。
 きっとそのことだ。
執筆:凍雨

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