幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
凸凹師弟
凸凹師弟
関連キャラクター:アーマデル・アル・アマル
- 幕間の溜息
- ●日々の一片
必要以上に個を認識してはいけない。個へ感情を抱いてはならない。
感情とは糸であり、糸とは絡み縺れる死への誘いである。
――だとしたら、やはりこいつは人を殺す天才なのでは?
*
この数日で気になったことを、報告書のついでに記録しておく。
○の月×日
今日の訓練は滞りなく。体調不良者あり。
毒の中和薬と体質が合わなかった模様。
別途訓練済。
○の月×日
今日は実践を兼ねて、訓練部隊による本隊任務の支援を行った。
負傷者あり。致命傷には至らず。
別途治療済。
○の月×日
日照りが続く。訓練部隊にも体調不良者が続出。
今日に限っていつものあれは体調不良も怪我もない模様。
別途対応。
○の月×日
今度はひどい雨だ。砂漠に河ができるほどとは。
訓練が無ければ訓練部隊との接点もない。
懸念事項あり。別途対応する。
――このほぼ必ず文末に出てくる『別途対応』『別途訓練』が、特定個人を対象とするようになったのはいつからだったか。
「師兄、今日はどのような訓練でしょうか」
感情を向けているわけではない――とは、もう言えない。それくらいの自覚はある。そうなるに至るほど自身を認識せしめた手管については、この何も知らなそうな後進にも自覚して貰いたいが。
「今考えているところだ。お前は足りないものが多すぎてこっちも手を焼いている」
「すみません……」
「それより、医療技官からは何かあったか」
「イシュミルですか?」
『別途対応』の度に、刻みつけてきた傷。彼の健康を預かる技官なら、遅かれ早かれ気付くだろう。
もしそうなれば、彼の『師兄』としての立場はもはや保証されない。最悪教団を放逐か、処罰も有り得る。
(今の内に、他の派閥とのコネも作っておくか……)
「いえ、特には。滋養の薬だからと、虹色に発光する名状しがたい臭いの薬は頂きま……師兄?」
それ以前の問題だった。あの医療技官、診察と称して何を企んでいる。
「滋養の薬が、そんな服用に勇気が求められる見た目のわけあるか。見せてみろ、朝起きて変なキノコでも生えてたらどうするんだお前!」
「生えたことあるんですか師……ああ、そこの棚には前の診察時に貰った謎のゼリー状生物が」
この時の家捜しで、正気を疑うあれこれが山のように出てきたものの――それらの一切は、誰の記録にも残ってはいない。 - 執筆:旭吉