PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

凸凹師弟

関連キャラクター:アーマデル・アル・アマル

冬夜の柵(しがらみ)
●殺すために生き、生きるために殺す
 砂漠に冬はない。冬が無いのだから雪も降らない。
 生まれた時に殺した、本来孵るはずだった『夜』の魂さえ『冬』の要素は持ち得なかった。

 ならば、『冬夜』とは何なのか。

 *

 日の出ている間は灼熱が蹂躙する砂漠も、月が空を支配する間はその様相を一変させる。
 砂の海は太陽の熱を保てず、その表は氷原のごとく冷えてしまう。
 そのことをよく知る砂漠の民は、普通は対策もなしに夜の砂漠を出歩く自殺行為はしないのだ。
「お前がここまで死にたいとはな。その願い、ここで叶えてやろうか?」
 今日は施設の外での訓練。他の見習い達は日のある内に施設へ戻ってきたのに、アーマデルだけが日が沈んでも戻ってこなかった。
 訓練についてこられず命を落とすことも、教団では珍しくない。そのような者は、他の者を『死』へ引き込まないためにも早期に放逐するのが正しいのだろう。
 相手が『一翼』でなければ、ナージーが彼を探して夜の砂漠へ出張ることも無かった。
「そういうつもりでは……。しかし、どうしても……歩けなくなってしまって」
 アーマデルは、凍えるような寒さの砂上に倒れ込んで動けなくなっていた。脚を怪我して歩けなかったようだ。
 このまま放置すれば、『一翼』が奇跡でも起こさない限り自然に『死』へと引かれていくことだろう。
「師兄……俺がいては、迷惑をかけます……どうか、このまま」
「それだと、お前の死に一番引かれやすいのは俺なんだが。巫山戯るなよ?」
 それ以上文句を言わせず、死体のように冷え切ったアーマデルに毛布を被せて担ぐ。
「すみま、せん……、……」
「そのまま寝たら死ぬぞ。医療技官に診せるまで何か話してろ」
 とにかく、このまま野垂れ死にされるのだけは困ったのだ。
 彼が『一翼』の先祖返りという特異な存在であるがゆえ。
 そして。

(――眠るように、なんて楽な死に方。させてたまるものかよ)

 絶望と激痛と、屈辱と後悔と、あらゆる全てをこの手で傷付け奪ってからでなければ気が済まない。
 雁字搦めの歪んだ執着で以て、彼はアーマデルを助けるのだ。
 彼は、『冬夜』の裔であるがゆえ。

 『冬夜』として生を受けたナージーは、その運命に春の日が差すことはない。
 『運命の糸』が交わった者を『冬(死)』へ堕とすか、そうでなければ自らが溶け落ちるか。
 既に利き腕の運命が溶け落ちたに等しい今となっては、常に『冬』に近しいアーマデルを己の手で堕とすしかない。
 その執着がアーマデルを助けることで、逆に自らの運命を溶かしてしまう――その矛盾に気付きながらも、逃げられぬまま。
執筆:旭吉

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