PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

炎堂焔について

関連キャラクター:炎堂 焔

炎堂焔について。或いは、煙草屋の店主はかく語る…。
●煙草屋の店主はかく語る
 炎堂焔について?
 あぁ、あの娘っ子は炎堂って姓なのかい。
 あの子だろ? 仲間と一緒にトンチキな恰好をして遊んでる、赤い髪のさ。
 いやぁ、なに、よくそこら辺を走り回っているからね、焔って名前なのは良く知っているよ。ほら、どこかしらの修道女様か何かと仲がいいだろう? ほむらぁぁぁ! ってな具合で名前を呼ばれて、追いかけ回されてんのさ。
 ここら辺の住人は、その声を聞くと「そろそろ休憩にするか」なんて、時報みたいに使っているね。いや、少しばかり喧しいけどね、元気なのは何も悪いこっちゃないさ。
 うん? はじめからそんな風に好意的に思ってたのかって?
 それを言われちまうとね……この辺はまぁ、みての通り閑静なのさ。活気や生気に欠けるって言われりゃそれまでだが、アタシも含めて年寄りばかりなんだから、ちったぁ多めに見ておくれよ。
 そんな風なもんだから、最初のころは「騒がしい娘が来たもんだ」って、ピリピリしてた爺や婆もいたもんだ。けど、人間ってのは慣れる生き物なのさ。何日も元気に走り回ってるあの子の姿を見て、声を聞いているうちに、静かな時間を物足りなく感じるようになっちまったよ。
 いつだったか、あの子が仕事で長く不在の日があってね。煙草を買いに来た4軒先の酒屋の爺が言ったんだ。
 最近、あの子を見かけないけどどうしたんだろう? もしかして怪我か病気をしたんじゃないか? 様子を見に行ってやるべきじゃないか? 
 まったく、傑作だったね。あの子の一番「喧しい」って言ってたのは自分だってのに、いつの間にかすっかり本当の孫みたいに思ってやがるんだもの。
 その後、少ししてあの子が無事に帰って来たのを見た時は、皆そろって胸を撫でおろしたもんだ。もっとも、怪我をしてるのを見て、件の爺は顔を真っ青にして病院に駆け込んでいったがね。
 まぁ、あの子は今日も元気に過ごしているんだろ?
 だったらそれでいいじゃないか。
 老い先短い爺や婆が、あの子のおかげで少し元気になれたんだ。まったく、長生きして良かったと思ったのは初めてかもしれないよ。

 そもそも、あの子のことを嫌いになれるはずなんてないんだ。
 あの子は気にしてないだろうし、もう覚えてもいないだろうけどね、ここら辺の連中は皆、あの子に恩があるのさ。
 もうずいぶん前のことだけど、この辺りに群れからはぐれた狂暴な魔物が迷い込んで来たことがあってね。食うに困って人里に入り込んで来たんだろうけど、その辺りをうろうろしてやがったのさ。
 でも、幸いなことに怪我をした者も、命を落とした者も1人もいなかった。
 あの子が追い払ってくれたからね。
 なんたってあの子、空を貫くほどの火柱を呼んじゃったのさ。
 あまりの剣幕に、魔物は尻尾を巻いて逃げ出したってわけだね。
 
 ……ただね、友達と一緒にいる時のあの子はとても楽しそうにしてるんだけどね、時々、1人っきりの時なんかにさ、どこか寂しそうな顔をして、遠くを眺めていることがあるんだ。
 亡くした両親や、帰れなくなった故郷のことでも思い出しているのかね? っても、さっきも言った通りにさ、アタシらは生い先が短いから、どうしたってあの子を置いて逝っちまう。そう思うと、あまり踏み込んだ話をするのも憚られてね。
 アンタ、あの子の友達かい?
 そう言えば、あの子と一緒に妙な恰好をして遊んでいるのを見た覚えがある気がするよ。
 だったら、そうだね……悪いんだけどさ、あの子と仲良くしてやっておくれよ。
 あの子がいつも笑っていられるようにさ。
 あぁ、少し感傷的になっちまったね。歳を取ると、どうにも心配事ばかりが増えて仕方ない。嫌だね、まったく。
 時代は若い連中が動かすに決まっているんだから、アタシらが色々気を揉んだってどうしようもないのにね。
 ……それじゃあ、アタシはそろそろ仕事に戻るとしよう。
 今日、言ったことをあの子に伝える必要はないよ。
 アンタの胸のうちにでもしまっておいてくれ。
 じゃあ、まぁ、アレだ。
 楽しく元気にやってくれ。
執筆:病み月

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