幕間
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カルウェットのゆりかご
カルウェットのゆりかご
関連キャラクター:カルウェット コーラス
- 約束
- カルウェットはその手を伸ばすとコーラスフェルの角をそっと撫でた。
「どうしたんだ?」
カルウェットの行動にコーラスフェルはやや戸惑いながら声をかける。
「角、片方、折れてる」
カルウェットは心配そうにコーラスフェルの目を覗き込んだ。そんなカルウェットをコーラスフェルは優しく抱きしめる。
「優しい子だな」
コーラスフェルの心音が体を通して聞こえ、カルウェットの心はゆっくりとほぐれていった。
「これはもとからだぞ。それに私はこの角を気に入ってるんだ」
「なんでだ?」
カルウェットの無邪気な質問にコーラスフェルは軽く微笑んで、カルウェットの頭を撫でた。
「カルウェットにもノクターナルにも角があるだろう。この角を見ると私たちが家族だって実感できるんだ」
「そうなのか!」
カルウェットは顔を輝かせる。そしてさっきまでそうしていたようにコーラスフェルの角を撫で始めた。
「頭、撫でられる、嬉しい。フェルの大事な角、いっぱい撫でる!」
「ありがとう」
「ずっと、頭、撫でる。約束!」
「ふふっ、約束だぞ」
●
カルウェットは目覚めるとその目を擦る。すごく幸福な夢を見ていた気がした。しかし、それがなんであったか思い出せない。ただざわざわとした何かが心に巣食っていた。
カルウェットは仕方なくそのまま顔を洗いに向う。だが、胸の中にあるざわざわは無視をしようとしても鬱陶しいほどに存在を強調していた。
桶に水を溜めるとカルウェットはその水をすくい上げるため桶に目を落とす。すると不意に自分の角が目に入った。
そして無意識の内に、その手は角の方へと動き、頭を撫でていた。
何かを確かめるように、取り戻そうとするように、ぎこちない手付きで何度も自分の頭を撫でる。自分で自分が止められなかった。
カルウェットは体が震えるのを感じた。苦しかった。何かが自分の中から溢れようとしていた。
「なんだ……?」
か細い声が口から漏れる。この角は何かの証であったはずなのだ。絶対に忘れてはいけないものと自分を繋ぐ何かであったはずなのだ。
それを必死に探ろうとしても何も見つからない。確かに自分の中にあるはずなのに、触れられない。
カルウェットは宙に手を伸ばすと、その手を左右に小さく振る。それは掴めない何かを必死に掴もうとしているようであり、もう思い出せない何かを必死に果たそうとしているようでもあった。
「約束」
かろうじて思い出せるのは温かな声で語られるその言葉のみ。
雫が一滴、桶に垂れた。水面に波紋が浮かび上がる。それが合図だったかの如く、雫は何度も桶の水面へと落ちていく。
まるでカルウェットの心を代弁するかのように水面には無数の波紋が浮かんでいた。 - 執筆:カイ異