幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
カルウェットのゆりかご
カルウェットのゆりかご
関連キャラクター:カルウェット コーラス
- 誰かが治してくれた傷
- これから見えるのは、彼が失った家族との記憶。何の変哲もない『普通』の記憶。
家族のように共に過ごしたノクターナルとコーラスフェルに何気なく話しかけ、何気ない日常の話を繰り広げ、楽しく過ごすだけの日々。
ただそれだけの、『何もない1日』の記憶が徐々にカルウェットの頭に蘇った。
●
「カルウェット、カルウェットー?」
カルウェットが外でごそごそと何かをしていると、コーラスフェルが呼ぶ声が聞こえてきた。
そちらに振り向いたカルウェットは、何かを手で包み込んでコーラスフェルのもとへ。
「ああ、そこにいたのか。っと、なんだい? その手は」
「ふふふ、フェル、見て、驚け!」
「うん?」
カルウェットが両手を開くと、そこに現れたのは小さな小さなネズミ。
どうやら足を怪我しているようで、療養していたところでカルウェットに捕まってしまったようだ。
ぷるぷると震えるネズミ。涙目でコーラスフェルに助けを訴えるように顔を上げており、でもコレもうダメだ! と今にも言いたそうにしている。
そんな中でカルウェットは、えっへん! と誇らしげな表情を浮かべている。普段は捕まえられないものを捕まえることが出来て、たいそうご満悦。
「ネズミがいたから、捕まえた!」
「うんうん、そっか。けれどどうやら、この子は怪我をしているみたいだぞ?」
「えっ。……怪我、してるのか」
「ああ、ほら。ココ。鳥か何かから逃げるときに、何処かにぶつけてしまったんだろうね」
コーラスフェルが指さした先は、ぽっきりと折れてしまったネズミの左足。
このまま放置していても治ることには治るだろうが、真っ直ぐな足になることはないだろうというのがコーラスフェルの見解だ。
そんなのは可哀想だ! と鼻息を荒くしながら、カルウェットが嘆く。
痛いのは嫌だということは、この身がよく知っている。折れたままとなればなおさら、ネズミにとっては酷なものだろう。
「フェル、どうしたら、治せる??」
「そうだねぇ……ああ、じゃあこれとこれを使ってみようか」
コーラスフェルはそっとしゃがみ込むと、傍に落ちていた木の棒と木の葉を拾い上げる。
ネズミよりも大きな木の棒と木の葉を軽くちょちょいと折って、引き裂いて、ネズミの大きさに合わせた固定具を作り出す。
その手際の良さにカルウェットは声も出ないほど驚いたが、徐々にネズミの足に固定具が装着されると目をキラキラと輝かせた。
同じようにネズミも最初は大分恐れていたが、自分が治療されているのだと知ると大人しく、されるがままにコーラスフェルの固定具を身に着けた。
「わ、すごい。これで、ネズミ、治る?」
「そっとしておいてあげたらね。きちんと治るまで、君が面倒を見てあげるといいんじゃないか?」
「ということは、ルナに言わないと……」
「怒られるかもしれないね。さあ、言いに行こうか!」
「あわ……」
ぽんぽんと肩に手を乗せられて、流れるままにノクターナルへネズミのことを伝えたカルウェット。
カルウェットが助けたのなら見捨てる理由はない、ということでネズミは完治するまで3人のもとでお世話になったのだった。
●
「…………あれ」
気が付いた時、涙が溢れていたカルウェット。
今、立ち尽くしてる間に見えた光景はなんだったのだろう。思い出せない。
『誰か』が『誰か』を治療して、『誰か』をお世話するために『誰か』の許可を得た。
それだけが、カルウェットの頭の中に残された記憶。誰がどれで、どれが誰だったかさえももう、わからない。
「……でも、痛かったの、治った、だろうな」
誰が痛がってたのかも思い出せない中で、唯一、心に引っかかった出来事にカルウェットはそっと呟く。
痛みはきっと、自分じゃない誰かが治してくれたから大丈夫だと、そう言いたげに……。 - 執筆:御影イズミ