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幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

子竜伝幕間

関連キャラクター:シラス

Repose with Rain
 細雨の中に黒い傘の花が咲いている。
 濡れた灰色の石碑を取り囲むように黒の群れが蠢き、鎮魂の祝詞と共に土の中へと沈められる棺桶を見守っている。
 産まれた時から自分の入る墓を用意されている人生とは如何なるものか。
 いつかはこの土とこの石の下に埋められるのだと、文言に栄誉が刻まれるような生き方をせよと、幼い頃から言い聞かせられる。
 そいつは何とも恵まれた人生だとシラスは思う。
 スラムでのたれ死ねば、身包み剥がれて、はい終わり。
 動かなくなった塵を埋めるような手間、誰もかけてはくれやしない。
 それに比べ、産まれた時から自分を悼む場所が用意されるのだから何と贅沢な事か。
「シラスさん、大丈夫ですか」
「ん?」
 喪服を纏ったリースリットの表情は、帽子から垂れた黒いベールに遮られてはっきりとは伺えない。
 けれども気遣わし気な声色は、柔らかな慈雨のようにシラスの耳へと届いていた。
「悪い、少しぼうっとしてた。仕事に手は抜いていないから安心してくれ」
「……はい」
 何か言いたげなリースリットにむかってシラスは丁寧に微笑んだ。
 全身を黒で統一したリースリットは珍しい。
 黒は死者を悼む色。
 シラスは髪色で、貴族の葬式警備に選ばれた。
 その事に関して思う所はない。自分の目の色であろうが髪の色であろうが、使えるものは皆武器だ。
 雨にけぶった世界で黒のスーツに身を包み、影のように立ち尽くしている。
「しかし葬式に厳重な警備が敷かれるってのも可笑しな話だよな」
 葬儀に参列した黒服の内、親族は一握り。後は全て参列者へと偽装した護衛の兵である。
「婚礼と葬儀は親族が集まりますからね。貴族にとっては暗殺される可能性が高い、危険な日でもあるんです」
 寂し気に目を伏せたリースリットは胸に一輪の百合を抱いている。
「それでも出るのか」
「お見送りですから」
「そんなもんか」
 降り注ぐ雨と共に乱雑に墓穴へと投げ込まれていく白い花は、一輪だけで三日分のパンが買える値がするのだろう。
 白百合を投げ込む墓穴も残飯を投げ込む塵穴も大して変わりはしないというのに。
 シラスとリースリットは最後の一組として傘の中へと進み出た。
 体温が仄かに移った献花をリースリットが手放すと、棺桶を白が埋め尽くす。
 ――ッ。
 背をむけた相手から首筋にひりつくような殺気を感じ、シラスは準備運動するように指を軽く動かした。
 黒が奔る。緋色を宿した魔晶の細剣が翻り、雷光の如く踏み込んだシラスの影と交差する。
 一つの刃先はこめかみへ、一つの手刀は喉元へ。
 参列者の悲鳴と共に、出遅れた護衛達が己の仕事を思い出し動き始めた。
「爆発物の持ち込みとは穏やかじゃねえな」
「少しでも動けば命の保証はしません」
 シラスは不敵に、リースリットは真摯に相手に敗北を宣告する。
「墓掘りに残業させるのは止めてやれ。なにせ今日は雨だ」
執筆:駒米

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