PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

人形少女食事録

関連キャラクター:ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド

砂漠のヴァイス。或いは、コフタを添えて…。
●砂漠の旅
 太陽は今日も元気であった。
 遮るもののない砂漠。とぼとぼと歩く真白い女。汗の1つも掻いていないし、白い肌には僅かの日焼けも見当たらない。
 女の名前はヴァイス・ブルメホフナ・ストランド。依頼の帰りに散歩に出かけて、うっかりと帰路を見失って、広い砂漠を1人、彷徨っているのである。
「こまったわ。標識の1つでもあれば、帰り道程度はどうにだってなるというのに」
 そう呟いて、ヴァイスはピタリと歩を止めた。
 見渡す限りの砂漠の先から、駱駝を連れた人影が歩いて来るのが視界に移ったからだ。どうやら向こうもヴァイスのことに気付いたらしい。駱駝を引きながら、ぶんぶんと手を振ってくれている。
 この暑い中、妙に元気な御仁である。
 ヴァイスは手を振り返し、はて、と小首を僅かに傾げた。

「やぁ、お嬢さん。あ、いや? お姉さんかな? こんな砂漠で何をやっているんだろう?」
 頭からすっぽりと布を被った若い女だ。
 連れている駱駝の背にはソーラーパネルを積んでいる。伸びたコードは、駱駝の胴の左右にぶら下がっている冷蔵庫と、折り畳み式の鉄板らしきものに繋がっていた。
「何を、と言われると、少々迷子を。そう言うあなたの方こそ、駱駝だけを共に砂漠を旅するには、少し不用心な気がするわ」
 見たところ、女は武器の類を携行していなかった。とてもじゃないが腕っぷしが強いようにも見えないし、荷物を満載した駱駝を連れていては逃げるのも容易では無いだろう。
 そんなヴァイスの問いかけに、女はくっくと笑ってみせた。
「あは。本当に迷子なんだ」
「ん?」
「いやぁ、ここからじゃ見えないけどね、向こうに少し行ったら街があるのさ」
 そう言って、女は冷蔵庫を開けて、小皿を一枚取り出した。
 取り出した皿の中身を鉄板に乗せると、じゅう、と肉の焼ける音。胡椒の利いた香りが辺りに漂った。
「それは?」
 突然に料理を始めた女を、ヴァイスは訝し気に見やる。女は笑って、焼けた肉を皿へと戻し、スライストマトと、炙った青い唐辛子を添え、ヴァイスへとそれを手渡した。
「500G。街の場所を教えてあげたんだから、一皿食べて行ってよね」
 どうやら彼女、腹を空かせて街へと向かう旅人たちに、こうして軽食を食わせることで罅の糧を得ているらしい。
「ハンバーグ?」
 皿に乗っているのは、一口サイズのハンバーグらしき肉餅である。肉はおそらく羊だろう。
「コフタだよ。砂漠の国のおやつみたいなものだよね」
 差し出された手に金貨を持たせ、ヴァイスは皿を受け取った。
 一口、齧った肉餅からは野趣に富んだ肉汁が溢れた。
「……スパイスが効いているわ」
 砂漠で齧る熱い肉も、存外に悪くは無いようだ。
執筆:病み月

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