PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

人形少女食事録

関連キャラクター:ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド

夏の、よくある光景。
 カンカン照りの日差し。
 じわじわと蒸し返す熱。
 本来ならば汗がじんわりと滲むところだが……ヴァイスの身体にそれは見受けられない。
 人形の身体には暑さを感じることはあっても、じわりと汗が滲むことはなく。
(でも……暑いのは、暑いのよね)
 このままだと、熱で溶けてしまいそう。……という言葉が実際に起こりそうな気がしていてたまらない。
 どうにか涼しい場所を探して、身体を冷やさなければいけない。そう考えたヴァイスは辺りを見渡して……。

「かき氷はいらんかねー」
 丁度振り向いたその時、かき氷の露店販売が目についた。
 色んな人が色とりどりのかき氷を片手に、露店から出ていくのが伺える。
「かき氷……」
 氷と付くのならばきっと冷たいものなのだろうと、ヴァイスはてくてく露店へ近づいて様子を見る。
 大きな氷ががりがり、がりがりと削られて、赤や緑、黄色や青色の様々なシロップをたっぷりとかけられているシンプルな氷菓。
 器にこんもりと盛られた削り氷はまるで雪の山を表現しているようにも見えた。

 こんな食べ物があるのだなぁと眺めていると、露店のおじさんがヴァイスに視線を向けた。
「おっ。お嬢ちゃんも食べるかい?」
 食べるか、と聞かれてしまって、好奇心が更に高くなっていく。
 少しでも涼めるだろうし、何より、食べてみたいという気持ちが大きくなっていた。
「ええと……じゃあ、その赤いのを」
「ん。蜜はたっぷりかけておくよ」
 がりがり、がりがりと勢いよく回転する機械に氷が削られて、小さな器に氷の山が出来上がる。
 ヴァイスが指定した赤いの――いちご味のシロップをたっぷりとかけられて、彼女の手にかき氷が届けられた。
「あんまり早く食べすぎないようにね」
「……? はい。ありがとうございます」
 おじさんが言っていることはよくわからなかったが、早く食べ過ぎると何かがあるのだろう、ぐらいにしか思わなかったヴァイス。
 露店から少し離れた、他のお客も涼んでいる日陰でゆっくりとかき氷を口にする。

「美味しい……!」
 口の中に入れると、しゅっと消えて、甘い味が口いっぱいに広がる。
 ただそれだけなのだが、口の中が冷えると自然と身体も冷えていく感覚があった。
(これが、かき氷……)
 他のお客がサクサク、サクサクとシロップを全体になじませる様子を見て、ヴァイスも同じように真似をして食べ進めていく。
 ある程度食べ終わったところで、ふと、ヴァイスはあることに気づくのだ。
(……? 美味しいのに、なんで……)

 ――なんでみんな、頭を抱えているんだろう?

 人形であるヴァイスには、わからない。
 早く食べ進めることで、頭痛が来るなんて。

 夏、それは必ずやってくる。
 かき氷を食べる時、それは必ずやってくる……。

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