PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

アルトバ文具店(営業中)

関連キャラクター:古木・文

今月のインク
「文さん、文さん」
「――ん、ああ。もうインクがなくなりそうですか?」
 本から顔を上げれば、顔なじみの青年が居た。呼ばれないと気付かれないのは彼の気配があまりにも希薄なのだ。たまに仕事中も見つけて貰えないのだと彼は笑って話していたことがある。
「そうなんだよ。まあ、仕事してるって感じがするよね」
 からりと笑う青年は代筆屋を営んでおり、アルトバ文具店で扱うインクが好きだからと遠路はるばるやってきては何種類かのインクを纏めて買っていく。大体ひと月に一度程の頻度だ。
「今回はそうさなあ。団栗色と、モミジ色と――」
 彼が挙げていく色はどれも秋らしい。少しだけ季節を早取りしておけば、代筆した手紙が届く頃に丁度良い季節というわけである。誰しもがあっという間に大陸の端から大陸の端へ、さらにその先の離島へなど行けるはずもないのだから。
「はい」
「ありがと文さん。季節の変わり目は体調に気をつけてね」
「幽さんこそ。根を詰めすぎないようにしてください」
 勿論だとも、と胸を張った幽(ユウ)が片手を挙げて去っていく。もう暫くしたら、あのインクでしたためられた手紙が世界中へ運ばれていくことだろう。
執筆:

PAGETOPPAGEBOTTOM