PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

Chat in the Stella Bianca

ここは昼間は軽食喫茶 兼 夜はバーの"Stella Bianca"
今日もオープンキッチンでは店主のモカ・ビアンキーニが働いています。
(チリンチリーン)
おや、お客様の来店でしょうか……。
「いらっしゃいませ!」


関連キャラクター:モカ・ビアンキーニ

凍える夜にはビターな肴を
 その晩は、凍えるような寒さと静寂が支配していた。
 その寒さが災いし、バーが開店してから数刻が過ぎたが、未だ1人の客も訪れない。
「今日はこのまま店仕舞いかな……」
 モカが呟いた直後、チリンチリンと音を立て、1人の男が来店する。
 男は分厚いコートを羽織り、腰に銃を提げている。片目には眼帯を付けていた。
「いらっしゃいませ!」
 男はモカの挨拶に会釈して返すと、カウンター席に座る。
「強い奴をくれ。こだわりは無い。強ければ何でもいい」
「かしこまりました」
 男は、とても寡黙な客であった。差し出したグラスを黙って受け取ると、静かに仰ぐ。
 目を閉じ、まるで石像の様に身じろぎもせず。ただその動作を繰り返す。
 風が強まり、ガタガタと窓ガラスが揺れる。静寂に包まれた店内では、やけにその音がうるさく聞こえた。
「なあ、アンタ」
「なんでしょうか」
 唐突に男が話しかけてきたのでモカは僅かに驚いた。だがそんな事はおくびにも出さない。
「アンタ、人を殺した事はあるか?」
「それはまた……唐突な質問ですね。どうしてそんな事を?」
「俺はこれまで何人も殺してきた。この銃で。傭兵だからな。で、ふと思ったんだ。俺以外の人間は、どういう気持ちで人を殺してるんだろうってな」
「なるほど……でも、今の私は唯のバーテンダーです」
「そうか」
 男は再び沈黙する。モカはこの話題を続ける事を一瞬躊躇ったが、こんな寒い晩で、他に客は誰もいない。そして目の前の客はこの話題を続けたがっている様に見える。
「…………そういう質問をされるという事は、あなたは人を殺す事に何か特別な思いを?」
「いや、逆だ。何も感じない。誰の頭を撃ちぬこうが、別に俺が傷つく訳じゃない。誰かの為に飯を作るのも、上司に媚びながら書類仕事をこなすのも、人を殺すのも。全部唯の仕事だ。だが、この考えは一般的では無いと最近気づいてな」
「ふむ……ですが、あまり気にする必要もないのでは? 少なくとも殺される相手は、あなたがどんな感情を持って引き金を引くかを重要視しないでしょう」
「はは、言えてるな……中々言うじゃないか、バーテンダーさん」
「そうでしょうか?」
 男は応えず、静かにグラスを傾ける。
「唯のバーテンダーである私には、お客様の最初の問いに答えられませんが……お客様の話を聞く事と、お酒を提供する事は出来ます。お代わりはいかがですか? ミスター……」
「グレイスだ。傭兵のグレイス。お代わりは頂こう。長い夜になりそうだからな、次はフルーティで軽めの奴を頼む。あんたも飲みな。俺のおごりだ」
「ええ、もちろん。かしこまりました」
 凍える夜に、2人はビターな会話を肴に、静かにグラスを傾けるのだった。
執筆:のらむ

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