PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

よろずな日々

関連キャラクター:ヴェルグリーズ

耳朶
「そういえば星穹殿」
「はい、なんでしょう?」
 ソファから立ち上がると、引き出しから小箱を取り出したヴェルグリーズ。その小箱は星穹にも見覚えがあるもので。
「それは……」
「ふふ、そうだね。キミは見覚えがあるよね?」
「い、意地悪ですか?」
「キミがお祝いしてくれないから」
 拗ねたように頬を膨らませる星穹。
 その箱の中身はピアスであった。小さなダイヤモンドをあしらったそれは、星穹が豊穣の地へと姿を眩ましていた間にヴェルグリーズが『見つけた』ものである。
「折角ならキミに開けてもらいたいな、って思ってとっておいたんだ」
「……私が、ですか?」
「うん。だから、あけてくれるかい?」
 剣に穴をあけるなんて、と。思わないわけではないから、ヴェルグリーズに任せたつもりではあったのだけれど。
 ヴェルグリーズの大きな手は拒絶をゆるさないとでも言わんばかりに星穹の傷だらけの右手を掴み、耳へと導いた。
「キミの手で、俺に傷をつけて」
「……それは、なんだか語弊があるのですが」
「でも本当だよ? キミの手で残した傷が欲しいんだ、俺は」
「じゃあ、私にも」
「ん?」
「私にも、貴方が穴をあけてくれるなら。構いませんよ」
 ぐい、と手を引っ張った星穹は、ヴェルグリーズがしたのと同じように耳朶へとその手を触れさせて。
「……うん、わかった」
 柔らかいそれは、間違いなく彼女がここにいる証明で。
 優しく頬を撫でると、改めてその存在を取り戻せた喜びを噛み締めるように、ヴェルグリーズは星穹を抱き締めたのだった。
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