PandoraPartyProject

幕間

よろずな日々

関連キャラクター:ヴェルグリーズ

Q.何があったでしょうか
「「あっ」」
「…………」
「いや違う、誤解なんだ、信じてくれクロバ殿」
「うんそうだねそんな時もあるよね。そうしたいときもあるだろうさ。誤解だもんね」
「いや違うんだ。そうは見えないかも知れないけど……本当に違うんだ!」
「うん」
「その微笑ましい顔はなんだいクロバ殿」
「いやあ……うん……」
「解ったから天を仰ぐのはやめようかクロバ殿」
執筆:
星刀剣と隠し事
●ローレットにて
「……こりゃまた派手に戦ったらしいな」
「そうなんだよ。それでね、星穹殿が俺に隠してることがあるらしいんだよね」
「な、何もありませんったら……!」
 まあ嘘である。
 隻腕になった星穹と会うのは初めてな幻介。不満げなヴェルグリーズを見るのはとても面白いのだが、それでは相棒たる二人らしくはない。
 納得が行かない様子のヴェルグリーズではあるものの、情報屋に呼ばれたために渋々席を外す。
「……で、本当は何を隠してるんだよ、星穹」
 ヴェルグリーズが相棒ならば幻介は同業者。同じ暗がりを歩く二人が打ち解けた中であるのは確かで。
「その……幻肢痛があることを。薬を頂くことも提案されたのですが、それでは私の背負うべき罪にはなりませんから」
(…………まずいのでは?)
 その時幻介に直感走る。あっこれあかんやつや。
「でもヴェルも心配すると思うぞ?」
「だからですよ。彼に心配はかけられません。ましてや義手をつけていたら痛みがあるとバレる仕組みだなんて、」
「おい星穹、後ろ!」
「…………あ」
「せーらーどーのー??」
「…………今度酒を奢ります、頼みました、幻介様!」
「えっ、ちょ、まっ」
 苦無を取り出し走り出した星穹。それを追いかけようと走り出したヴェルグリーズを慌てて刀で制す。の、だが。
「すまない幻介殿、手合わせもいつかしたいところだけど今はそれどころじゃないんだ!」
「おい!?」
 己を顕現させ弾いた刀の上に軽く飛び乗り、幻介を飛び越えたヴェルグリーズ。
「……どっちが忍者だ、あれ」

 なおローレットで騒いだお叱りもとばっちりで幻介のところにいきました。可哀想だね!
執筆:
おじさんは勝手に約束を取り付ける
「剣が喋るなら、そのうちおれのこいつも喋るようになるかね」
 机に置かれた赤い刃は科学と神秘、技術者の粋を尽くした一級品。電子制御付き、思念力増幅機能付きのサイキック・レーザー・カタナ。うららかな午後、退屈だとヴェルグリーズの元に押しかけて来たヤツェク・ブルーフラワーの愛刀で、銘は『アーデント』。最も普段は鞘であるツインネックギターに入れられ、出番はないのだが。
「この間喋っていたのじゃだめかい?」
「ありゃ、人工知能だ。そりゃあ人格持ちの高性能じゃあるが、そういう話じゃなくてな……」
 鉄帝の火酒を昼からあおる老詩人は、話を続ける。
「正直おれは、ファンタジーが好きでな。おれのいた世界じゃ、そういうのは技術に負けて息が尽きていたからなあ。あんたみたいな存在は非常にロマンチックでそそられるのさ。いや、口説いてるわけじゃないが」
「それはどうも?」
「で、うっかり、こいつが熟れた年増のねーちゃんにでもならないかと、ふと思ってな」
 気まずそうに告げるヤツェクをちらりと見て、ヴェルグリーズは『アーデント』の柄に触れる。作られたばかりの『若い』刃だ。相当な達人の手で作られたのだろう、バランスは良い。とはいえ、話しかけて来る気配は、当たり前だが、ない。
「いい剣だよ。大事に使っていれば、そのうち喋るかもしれないね」
「ありがとさん……そのうちというのはおれが死んだあとかね」
「さあ、それはこの子が喋るまで待たないと」
「もし、おれが先に逝って、こいつが喋りはじめたら……酒場で一緒に暴れたよしみだ。おれの子だと思って面倒を見てくれ」
「勝手に言うね?」
「おじさんは勝手な生き物なんだよ」
 年へた精霊種に笑いかけ、宇宙から来た男は続ける。
「だから、まあ、長く生きてくれ。な」
執筆:蔭沢 菫
御伽噺の魔法使い
●菫紫の誘い
「……」
「……どうしたんだい商人殿。そんなに見つめて」
「いや。遊びの余地が生まれたと思ってね」
「"遊び"?」
「そうとも」

 ソレは、ヴェルグリーズを……正確には彼に走る痛々しい「ヒビ」を指差すとクツクツと愉快そうに笑った。

「キミは良くも悪くも"完成された剣"であったから。ま、実用剣である以上完成していて当然なのだが……。そこに"何か"を継ぐことができる機会が生まれたのは奇跡的と言っていい」
「そう、なのかい?」
「普通の鍛冶師じゃ匙を投げる。飛び抜けた鍛治師なら何とか元通り。それ以上をキミが望むなら、」

 詠う様なソレの、長い前髪の下の瞳と視線が合った気がしてヴェルグリーズはなんだか目が離せなくなる。

「それ以上を、望むなら?」
「ヒヒ……広告はここまで。続きはサヨナキドリへおいで。我(アタシ)の小さな工房へ」
「気になるところで切られちゃったな……」
「何、悪い様にはしないとも。我(アタシ)はキミを護り刀の様に気に入っているからね」
執筆:和了
主への手紙
 別れの剣ヴェルグリーズ。
 彼は数多の主を渡り歩いてきた。

 例えばある時は幻想郊外領主、ある時は鉄帝の軍人、そしてその先で復讐に染った魔種の女の手にも渡った事もあり、その末路に当時の特異運命座標の男の手に渡った。
 あの頃は手足もなく助けてもらった礼も出来ずにいた。せめて武器として役に立とうと思ったのにあの男は「これは保管してた方がいいだろう」とヴェルグリーズをローレットに送ってしまったのだ。
「あれからまた運ばれたり、盗まれたり、色々あったけれど」
 あれから何年、何十年……はたまた百何年と経っているのかもしれなくて、この肉体を得た頃には元の主を探す事も難しくなっている。
「あの時は本当に折れるかと思ったから……助けてもらったお礼が言えれば良かったんだけどな……」
 あの特異運命座標は……良くて老いてしまったか、死んでしまっているかもしれない。せめて名前を聞いていれば手紙でも何でも書けたかもしれないのに。
 ……うん?
「なんだ、簡単なことじゃないか」
 ここは情報屋ローレット。名前こそわからなくても特徴や仕草、外見も提示すれば……当時の彼に辿り着けるのではないだろうか?
「彼だけじゃない。前の主達の事ももう少し知ってみたい」
 直接関わるのはもう難しくても、どんな人物だったのか……他の人達からの目線でも知ってみたいと思った。
 自分を使ってくれた主は全員良く見えてしまうもの。だからこそ何故そんな末路を辿ってしまったのか……無念ならない事も少なくはない。
「よし、ちょっと頼んでみよう」

 それは彼が彼自身のルーツを探す旅の始まりかもしれない。
執筆:月熾
ご祝儀

「やァ、ヴェルグリーズ」
「……ええと、それは?」
 武器商人が差し出したそれ。カムイグラで手に入れたのだろう包みには――そう、ご祝儀と書かれている。
 先日の依頼を受け様々な込み入った事情が絡み最終的に息子が生まれたヴェルグリーズ。母親はなんと相棒である。なにもしてないんだ。本当なんだ。なんかあそこらへんで死神がほぁ……って顔してるけど多分幻覚なんだ。
「何、子供がいるならウチの子とも遊ぶことがあるだろうと思ってね。純粋に祝いに来たのもあるけれど……お前は頑張り屋だからね、また傷を増やしているようだし」
「……はは」
 それが戦う彼の宿命であると理解しているから、武器商人はそれ以上追求することはない。
「小鳥と選んだのさ。気に入ってくれたら幸いだね」
「……ありがとう。あとで星穹殿にも見せておくよ」
「せら、というのは?」
「ええと……俺の相棒で、息子の母親……かな」
「ふむ、なるほどね」
執筆:
ヒトガタ

 命の意味。
 その、答え。


 奪うだけが命であろうか。
 奪われるだけが生であろうか。

 その問いは覆されることはなく。ただ剣としての生涯を甘受している。
 剣を振るうならば多くは『奪う』意味を理解し、『奪われる』覚悟を持ったものにこそその才は授けられる。
 痛む胸の意味はまだわからない。
 ひとのなり損ないと詰られれば、そうだと答えるしかない。そんなヒトガタのなにか。それがヴェルグリーズたるいきものだ。
 涙の理由も。怒りの意味も。とってつけたように、解ったふりをして。そうして人のなかに混じりきれずに浮かんで、己の弱さをまたひとつ理解する。
 その心の理由がわからない。
 共感に欠けると言われれば苦笑せざるを得ないが、その苦笑すらもひとの真似だ。
 これまで自分を得た誰かの感情の模倣の繰り返しで『ヴェルグリーズ』は存在している。
 無感情な誰かではなく、ちゃんと生を謳歌した誰か。故に彼の感情は押し付けで傲慢だ。
 散々だ。ああ、本当に。
 ひとの真似事は難しい。それ以上に、正解がないから解らない。
 しあわせだと。さいわいだと。そう仄かに笑ったときでさえ、己の不確かな感情を呪わずにはいられない。

 ――ああ。

 ため息ばかりがこぼれていく。
 夢を見ていた。
 人のように生きる夢を。大切な友と、人として生きる夢を。
 けれどそれは叶わない願いで。愚かな程に己の立ち位置を知らしめる醜い劣情だ。
 俺はひとにはなれないし、ひとと同じにもなれない。

 ヒトの痛みを解ったようなふりをするなよ――たかだか、道具の分際で。

 それならば。あの時、感じた感情のすべては、偽りだったのだろうか?
 わからない。

(――どうすれば、)

 この気持ちが正解だとわかるのだろう。
執筆:
赤と青のチェス盤
瞼の裏に映る景色の全てが、今起きている事とは限らない。
例えるのなら夢、若しくは過去の何処かで経験していたのかもしれない断片の様な何か。

『故に、私は斃さねばならない』

赤を纏った女は云った。
ヴェルグリーズを構え、祈る様に目を伏せる。彼は彼女の願いの元、其の長い髪を断ち切った。

『だからこそ、僕は認められない』

青を宿した男は云った。
惨めにも地に伏せ、此方を見上げる赤をただ見下ろす。彼は彼の願いの元、其の命を断ち切った。
地に落ちる赤を眺めつつ、男は軽く剣を振る。僅かに残っていた筈の血も滑り落ち、牢獄の床に色を付けた。
灰の床が一滴、また一滴と色を深める。この色は、男の瞳から落ちる雫だった。

『正しい戦なんてない、分かっていたつもりだったんだ』
『ただ僕は……違う道を、認めて欲しかった』

聞こえてくる男の独白は、ヴェルグリーズにどれだけ届いたか知れない。
或いは何も聞こえていなかったのだろうか。細い首筋に、銀色の刃が触れる。
細い傷口からは剣を伝って、嗚呼、赤が。

『………姉さん』

赤が散る、青を塗り替えて。


持ち上げた瞼は何時もより重く感じた。何時の間に眠ってしまっていたのかも知れない。
ただ、ヴェルグリーズは"瞼の裏"を思い出していた。古いあの日に断ち切った、赤と青の縁を。
ファーストステップ
「待たせたかな?」
「……お、いい匂い」
「いえ、そんなことは。二人とも来てくれてありがとうございます」
 ヴェルグリーズが合鍵を使って星穹の部屋の扉を開ければ、ふわりと鼻を擽る優しい香り。
 エプロンをつけた星穹がぱたぱたとキッチンへ戻っていくのを横目に、クロバとヴェルグリーズはそれぞれ靴を脱いで、部屋へと上がった。
「どうせ空に出す前に試食して欲しいとかそんなところだろう?」
「ふふ、その割には毎日頑張ってるみたいだったけどね。隣の部屋からいい匂いがしてきたから」
「……お見通しでしたか。適当なところにかけてください。……空は?」
「眠ってるよ。起きても此処にいるって解ると思う」
「ま、必要なら迎えに行こう。子供だしな」
 四人がけのテーブルに隣り合って座ったクロバとヴェルグリーズ。米と味噌汁、それから野菜炒めは用意されていた。の、だが。
「……今日練習したのは、こちらなのです」
 緊張した面持ちで出されるのは、ふっくらと焼き上がり綺麗な黄色をした――
「玉子焼き、かな?」
「おお、上手いじゃないか」
「クロバ様の御指南もありましたから。味付けが……好みがあると聞いたので、どうすればいいのかわからなくて」
 凝り性だ、とクロバは思う。
 料理なぞ拘る必要がないところもある。だがしかし星穹にそれは無理だろう。
 ただでさえ自分に無頓着で子育てもしたことのない人間が、ひとりの子供の命を預かってしまうことになったのだから。
 焼き立てをすぐに持ってきてくれたのだろう、湯気のたつそれは口のなかでじゅわり、ほろりと形を崩していく。
「……どう、でしょう」
「……うん、美味しいよ」
「だな。心配することはないと思うぞ」
「そうですか……良かった」
 ほっと胸を撫で下ろした星穹は、安心したように笑みを浮かべた。

 それはまだ夏の始まった穏やかな日のこと。
 星穹が、銀鞘を置き消える前の、夏の日の話。
執筆:
耳朶
「そういえば星穹殿」
「はい、なんでしょう?」
 ソファから立ち上がると、引き出しから小箱を取り出したヴェルグリーズ。その小箱は星穹にも見覚えがあるもので。
「それは……」
「ふふ、そうだね。キミは見覚えがあるよね?」
「い、意地悪ですか?」
「キミがお祝いしてくれないから」
 拗ねたように頬を膨らませる星穹。
 その箱の中身はピアスであった。小さなダイヤモンドをあしらったそれは、星穹が豊穣の地へと姿を眩ましていた間にヴェルグリーズが『見つけた』ものである。
「折角ならキミに開けてもらいたいな、って思ってとっておいたんだ」
「……私が、ですか?」
「うん。だから、あけてくれるかい?」
 剣に穴をあけるなんて、と。思わないわけではないから、ヴェルグリーズに任せたつもりではあったのだけれど。
 ヴェルグリーズの大きな手は拒絶をゆるさないとでも言わんばかりに星穹の傷だらけの右手を掴み、耳へと導いた。
「キミの手で、俺に傷をつけて」
「……それは、なんだか語弊があるのですが」
「でも本当だよ? キミの手で残した傷が欲しいんだ、俺は」
「じゃあ、私にも」
「ん?」
「私にも、貴方が穴をあけてくれるなら。構いませんよ」
 ぐい、と手を引っ張った星穹は、ヴェルグリーズがしたのと同じように耳朶へとその手を触れさせて。
「……うん、わかった」
 柔らかいそれは、間違いなく彼女がここにいる証明で。
 優しく頬を撫でると、改めてその存在を取り戻せた喜びを噛み締めるように、ヴェルグリーズは星穹を抱き締めたのだった。
執筆:

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