PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

よろずな日々

関連キャラクター:ヴェルグリーズ

おじさんは勝手に約束を取り付ける
「剣が喋るなら、そのうちおれのこいつも喋るようになるかね」
 机に置かれた赤い刃は科学と神秘、技術者の粋を尽くした一級品。電子制御付き、思念力増幅機能付きのサイキック・レーザー・カタナ。うららかな午後、退屈だとヴェルグリーズの元に押しかけて来たヤツェク・ブルーフラワーの愛刀で、銘は『アーデント』。最も普段は鞘であるツインネックギターに入れられ、出番はないのだが。
「この間喋っていたのじゃだめかい?」
「ありゃ、人工知能だ。そりゃあ人格持ちの高性能じゃあるが、そういう話じゃなくてな……」
 鉄帝の火酒を昼からあおる老詩人は、話を続ける。
「正直おれは、ファンタジーが好きでな。おれのいた世界じゃ、そういうのは技術に負けて息が尽きていたからなあ。あんたみたいな存在は非常にロマンチックでそそられるのさ。いや、口説いてるわけじゃないが」
「それはどうも?」
「で、うっかり、こいつが熟れた年増のねーちゃんにでもならないかと、ふと思ってな」
 気まずそうに告げるヤツェクをちらりと見て、ヴェルグリーズは『アーデント』の柄に触れる。作られたばかりの『若い』刃だ。相当な達人の手で作られたのだろう、バランスは良い。とはいえ、話しかけて来る気配は、当たり前だが、ない。
「いい剣だよ。大事に使っていれば、そのうち喋るかもしれないね」
「ありがとさん……そのうちというのはおれが死んだあとかね」
「さあ、それはこの子が喋るまで待たないと」
「もし、おれが先に逝って、こいつが喋りはじめたら……酒場で一緒に暴れたよしみだ。おれの子だと思って面倒を見てくれ」
「勝手に言うね?」
「おじさんは勝手な生き物なんだよ」
 年へた精霊種に笑いかけ、宇宙から来た男は続ける。
「だから、まあ、長く生きてくれ。な」
執筆:蔭沢 菫

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