PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

おまかせ

関連キャラクター:ゼファー

『人探し』の夜を越えて
 橙色の灯りが、辛うじて店内を薄く照らす。
 壁の照明は不規則な間隔で疎らに灯るのみで、碌に修理も交換さえもされていないのだろう。
 それでも、朝早いというのに先客がいるこの店はきっとこの――何処かの山を越えた僻地の、その中でも辛うじて『街』と言えるこの地には必要な場所で。
 ギィ、と軋むスツールに腰掛ければ、草臥れた初老の男がカウンターの中から「見ない顔だね」とゼファーに声を掛ける。
「人探しをしていたの」
「いた、ということは見つかったのかい?」
「見つからなかったわ」
 ――尤も、もう見つかることもないのでしょうけど。
 続く言葉はこの場には不要だからと、ゼファーが紡ぐのはこの場に求められる言葉。
「ところで何か、温かいものをくれない? ここ最近は硬いレーションばかりで、ようやくちょっとはマシな御馳走にあり付いたと思ったら色々あったから」
「マシな御馳走より上かはわからんが、ちょっと待っていてくれ。麦だけはよく採れるんだ」
 カウンターの奥へと入っていく男の背を見送って、ゼファーは水を煽る。
(……こんな時、煙草でも、アルコールでも楽しめたらいいんだろうけど)

 紫煙と共に臓腑に溜まったものを吐き出せれば。
 喉を焼くアルコールで閊えたものを流し込めれば。

 逃げ方を知らぬ女は――ただひとつ、息を吐くのみ。

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