PandoraPartyProject

幕間

おまかせ

関連キャラクター:ゼファー

『人探し』の夜を越えて
 橙色の灯りが、辛うじて店内を薄く照らす。
 壁の照明は不規則な間隔で疎らに灯るのみで、碌に修理も交換さえもされていないのだろう。
 それでも、朝早いというのに先客がいるこの店はきっとこの――何処かの山を越えた僻地の、その中でも辛うじて『街』と言えるこの地には必要な場所で。
 ギィ、と軋むスツールに腰掛ければ、草臥れた初老の男がカウンターの中から「見ない顔だね」とゼファーに声を掛ける。
「人探しをしていたの」
「いた、ということは見つかったのかい?」
「見つからなかったわ」
 ――尤も、もう見つかることもないのでしょうけど。
 続く言葉はこの場には不要だからと、ゼファーが紡ぐのはこの場に求められる言葉。
「ところで何か、温かいものをくれない? ここ最近は硬いレーションばかりで、ようやくちょっとはマシな御馳走にあり付いたと思ったら色々あったから」
「マシな御馳走より上かはわからんが、ちょっと待っていてくれ。麦だけはよく採れるんだ」
 カウンターの奥へと入っていく男の背を見送って、ゼファーは水を煽る。
(……こんな時、煙草でも、アルコールでも楽しめたらいいんだろうけど)

 紫煙と共に臓腑に溜まったものを吐き出せれば。
 喉を焼くアルコールで閊えたものを流し込めれば。

 逃げ方を知らぬ女は――ただひとつ、息を吐くのみ。
仕事の後はこれ
 ひんやりと冷気が足首を通り抜ける深夜の雑踏。
 酒精に浸り、幸せそうな顔で眠りこける人を掻き分けて女ふたりが地下クラブから出てくる。
 別の路地から出てきた男がふたりを見て、ニヤニヤと近寄っていく。
「やあ、美人さんたち。もう良いのかい?」
 良かったら俺がDJをやるクラブで踊っていかないかと、声をかけてくる。
 女たちが揃って振り返り、男を見上げる。
「悪いけれど、遠慮するわぁ。それにこの子、未成年よぉ?」
「悪いね」
 アーリアが悪戯っぽく笑って、ゼファーの肩に寄り掛かる。
 男はゼファーが未成年であることが意外だったのだろう、驚いた顔のままふたりを見送る。
 路地から繁華街の入口へと顔を出したふたりはグッと伸びをする。
「さぁて、お仕事終わったしパァッと行きましょうか!」
「中華食べたーい」
 ゼファーがアーリアに笑いかけながら、中華飯店へと引っ張って行く。
 夜はまだ長く、ふたりの腹はこれから。
執筆:桜蝶 京嵐

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