幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
野花
野花
関連キャラクター:白薊 小夜
- 残響
- ●過日
「……あら」
白薊 小夜(p3p006668)が自邸で全く予想外の人物の顔を出迎えたのはまさに青天の霹靂だった。
驚いた雰囲気を纏った彼女の目の前には仏頂面をした紫乃宮 たては(p3n000190)の姿がある。
小夜は厳密には見えていないから彼女の顔を確認した訳ではなかったが、見えないなりに見えるよりも鋭敏たるのが彼女であった。
「予想外のお客さんだわ。てっきり嫌われていると思っていたから――」
「嫌いです」
「……やっぱりそうなの?」
「嫌いです」
小首を傾げた小夜にキッパリそう告げたたてははますます何とも言えない顔をしていた。
応接間――広やかな座敷に座布団が二枚。時折、お茶を啜る音だけが響く空間はシュールでさえあった。
「……じゃあ、どうして? 尚更、こうして来てくれたというのは意外だわ」
「うちも沢山悩んだんやけど……」
「……」
「……………」
「……どうして?」
二度促した小夜にたてはは「ああ!!!」と頭を抱えた。
小夜からすればそれは可愛いすずなを思い出す所作である。
いや、二人はビジュアルはそう似てはいないのだが――たてはの見た目はむしろ小夜に似ている――本質的な部分がそっくりである。
「たてはちゃん、落ち着いて、ね」
「……う、ぐぐ……この女、余裕見せはってからに……」
小夜は自邸で客を迎え、普通に寛いでいるだけなのだからたてはの言葉は殆ど難癖だ。
だが、そんなたてはの様子から――そして関係からも小夜は大体の用件は知れていた。
「……梅泉の事かしら」
「……………流石に気付かん程、鈍くはないやろな」
あくまで大体であるから、細かい部分に推測のつく話ではないのだが。
「あの後、クリスチアンさんも色々調べてくれたと聞いているけれど」
グラン・ギニョールの夜より此方、サリューは中々の騒がしさを迎えていた。
手傷を負った当主のクリスチアンだが、彼は流石にしたたかで幾つかの手を打つ事で更にアーベントロートを『動き難くした』と聞いていた。
事の次第や梅泉の事を小夜にわざわざ知らせてきた辺り、恐らくは多少の感謝と罪悪感を持っての事だろう。
ならばたてはは尚更とも思われた。彼女はより詳しい事情を知っている筈であった。
「それで、何か分かったのかしら」
「何にも。クリスチアンはんでもお手上げや。うちは悔しうて、悔しうて……」
言葉の端々に燃え滾るような憤怒が見え隠れしている。
相当『暴れた』らしいとは聞いていた。何なら小夜は自分も一党に居た気がする――夢を視た気さえする。
「そう」
それは兎も角。頷いた小夜がお茶を一口口に含んだ。
「……あんたは気になりませんの? 旦那はん、気にかけてたやないの」
「気にはなるわよ」
「ただ」と前置きした小夜はたてはに言う。
「『私は梅泉を信じているから』」
「――――」
「勝つと言ったのだから負けないでしょう?」
小夜は『男の嘘』に良い思い出が無い。
同時に『弱い男』にも良い思い出が無い。
男の言葉を盲目に信じる愚かさも理解してはいる心算だ。
だが、それでも――
――花濡れる
快哉細き
幕間の
死出路の招き
足蹴も涼し
――手弱女の細い快哉と侮られれば話は別だ。
(お望みの通り、信じていればいいのでしょう……?)
これと見込んだ男の事を。貴方は、他の誰とも違うから――
「……はぁ、成る程」
小夜の言葉にたてはの毒気が散っていた。
「『確かにあんたの事は大嫌いですけど、旦那はんの見る目はやっぱり風流なんやね』。
小雪はんがお前が決めろとか……本来ならほかしてやりたいとこでしたけど。
確かに『旦那はんが戻ってきたら』内助の功の一つ、正妻の余裕位見せとった方が惚れ直すやろからね」
「……?」
不思議そうな顔をした小夜の前にたてはは懐から取り出した布包みを置いた。
「『間違ってもこないだの晩の礼とかやありませんからね』!」
「これは……?」
「言いたくありません。あんた、犬娘にでも聞いて精々絞られればいいんです」
ぷい、と横を向いたたてはは「お茶、御馳走様」と席を立った。
布包みを解いた小夜の手の中には薊の簪。
「……ああ」
そう言えば、六月十九日は私の―― - 執筆:YAMIDEITEI