PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

メンテナンス

関連キャラクター:チャロロ・コレシピ・アシタ

二つの思い
 薄暗い部屋に小さな火花が飛んでいた。しばらくしてチャロロは持っていた工具を近くの机に置くと、自分の左腕の内部構造を確認する。そこにあるのは複雑に伸びている魔力を伝達するための回路や、それに繋がれた魔術式モーターなどだ。
 チャロロは軽く手を握ったり開いたりしてどこに異常があるのか確かめようとする。普段ヒーロー活動をしているチャロロは今日も敵と交戦していた。そして勝利を掴んだものの、敵の攻撃は想像以上に重く左手に微妙な違和感が残っていたのだ。
 チャロロは椅子に座り直すと改めて自分の姿を確認する。そこには自分は普通の人間ではなく、サイボーグであるというもうわかっていた答えがあった。それでも胸の奥に何か突っかかる物を感じる。
 普通子供であったなら、手の違和感くらい湿布をして数日安静にしていればよくなっただろう。でも、自分は違う。一度傷ついた体が勝手に元に戻るなんてことは無い。自分が生きていくにはこういった修理が必要不可欠である。
 チャロロはいつも自分のことを修理してくれるミシャのことを思い目を閉じる。簡単な修理ならば自分一人でも行うことができる。しかし、大掛かりなメンテナスにはどうしてもミシャの力が必要になる。
 さらに言えば、通魔性ワイヤーなどの特殊な素材は特注できるものの、値段はその分高くつく。自分の体が機械であるからこそ迷惑をかけているのではないかと、少しばかりは考えずにはいられなかった。
「どうしたのかしら?」
 突如かけられた声にチャロロは慌てて後ろを向く。そこにはミシャの姿があった。どうやら部屋に籠っていた自分を心配したらしい。
「その傷、見せてみなさい」
 ミシャの言葉にチャロロは自身の手を彼女に差し出す。ミシャはじっくり観察すると、すぐに問題部分を見つけたらしくチャロロにベッドに寝そべるように命じた。
「いつもありがとうございます、ハカセ」
 チャロロの言葉にミシャは気にしないでとばかりに首を振るとメンテナンスを開始する。話を聞くと、どうやら強い衝撃によってモーターの一部が接続不良を起こしているようだった。
「外装をミスリル合金にして正解だったわね。内部がこれほど衝撃を受けるなんてよっぽどの攻撃よ」
 ミシャの言葉にチャロロはその通りですと明るく笑ってみせる。それは命の恩人であり、今もこうして自分のメンテナンスをしてくれるミシャへのチャロロなりの気配りであった。大切な人に自分の葛藤を見せて悲しませることだけはしたくなかったのだ。
 メンテナンスが終了し、ミシャはもう起きて大丈夫だとチャロロに告げる。
「ありがとうございます! おかげですっかり良くなりました」
 チャロロは手を握ったり回したりして確認を終えるとにっこりと笑顔を浮かべる。そして、自分の悩みを悟られぬように部屋を後にした。

 部屋から出るチャロロの後姿を見送ると、ミシャはチャロロから取り外したパーツを静かに見下ろす。今になっても自分の選択は正解だったのかどうかわからなかった。
 瀕死のチャロロを見た時に抱いた恐怖をミシャは今でも忘れていない。一秒ごとに命を減らしていくその姿に、気づけば体は動いており、命を繋ぎとめるために全力を尽くしていた。その結果、自分は彼から人間であることを奪ってしまった。
 チャロロの屈託のない笑顔を見ると嬉しくなる。しかし、メンテナンス後のこの時だけは、同時に別の感情を抱いてしまう。自分に喜ぶ権利はあるのかと。彼を救うためとはいえ、彼の改造はチャロロを失いたくないという自分のエゴだったのではないかと。
 チャロロとは長い付き合いだからこそわかる。必死に隠しているが、チャロロは自分の体に何か強い思いを持っている。それを聞くことは今の自分にはできなかった。
 ミシャは工具を消すとチャロロを追いかけて部屋を出る。その目には確かな覚悟があった。自分が彼を改造したのだ。ならば、彼が必要とする限りその体を治し続けようと。それが自分にできる償いなのだから。
執筆:カイ異

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