PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

メンテナンス

関連キャラクター:チャロロ・コレシピ・アシタ

いつか、背を追い越したなら
「ハカセー……ごめんねオイラ、またメンテナンスさせちゃって」
「いいわよ、もういつものことだもの」
 ローレットの依頼から帰ってきたころ。動作不良を起こしたチャロロは、毎度の如くミシャにメンテナンスをお願いしていた。
 ベッドの上で寝転がり、申し訳なさそうな声を出すチャロロ。次いで聴こえるミシャの涼しい声に眉を下げた。
 ミシャのメンテナンスが終わるのを待つ間、チャロロの体は動くことができない。
 退屈と言えば退屈なのだが、こうなったのもおそらく自分が依頼で仲間を庇ったからに他ならないので何も言えないのだった。

 そんなチャロロを見かねたのか、ミシャは眉を挙げて声を掛けるのだ。
「それにしても、今回もまた派手にやったわね。いったい何をしたのかしら」
 あなたの、ヒーローの冒険譚を聴かせてほしい。そう薄く笑んだ彼女にチャロロは青い空のような瞳を輝かせる。
「あのね、頑張ったんだ! こーんなにでっかい敵でね! でもオイラ、一歩も引かなかったんだ」
 すぅ、と息を吸い込んで。それがまるで誇らしい勲章のように笑うのだ。
「だってオイラはヒーローだから」
 その言葉を宝物のように唇に乗せて、ミシャに向かって満面の笑みを見せるチャロロ。
 その笑顔を見れば、ミシャはいつも絆されるような心地になるのだ。
 けれどそれと同時に。
 こんな小さな機械の体で自分の何倍もの大きさの敵と戦うチャロロは、自分の体をどう思っているのだろう。
 こんな、成長できない体になって。
 ずっと、小さな姿のままで。
 そんな自分のことを。そんな風にあなたを変えた私のことを。
(この子は、どう思っているのだろう……)
 ふと言葉に乗せようとして、やめた。
 怖かったのだ。
 恨んでいたらどうしよう。さみしく思っているだろう。何もできなくて申し訳ない。
 大丈夫だ、と。何度自分に言い聞かせても、この不安はぬぐえない。

 ふと、気づけば俯いて俯いていたミシャの頬に冷たい手が触れた。
「ハカセ」
 顔をあげれば、手だけを動かしてチャロロがミシャの頬に手を添えていた。
 その顔は寂しそうに、でも、柔らかく。笑んでいて。
「いつかね、オイラの体を大人の体にできたら」
 今はちょっと難しいかもだけどね! とおどけたように言葉を挟んでから。
 また息を吸って、まっすぐにミシャを見据えて笑った。
「その時は、きっとハカセの背を追い越すからね! 待っててくれよな!」
 その顔は寂しそうに、でも確かに笑っていて。
 だからミシャも笑顔を返した。それがチャロロの優しさと分かったから。
(まったく。この子は、本当に……)
 己の弱さもさみしさも、隠して目の前の誰か(私)の為に笑う。
 まったくもって、危うくて強いヒーローだ。
執筆:凍雨

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