PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

メンテナンス

関連キャラクター:チャロロ・コレシピ・アシタ

機械の身体。或いは、無茶の代償…。
●機械の身体
 火花が散った。
 渇いた大地を、足を引き摺り歩いているのは齢にして10代半ばほどの少年である。
 名をチャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)。
 機械の身体を持つ“旅人”だ。

 夜明け前。
 空が一番、暗い時間。東の空が白くなり始める、ほんの少しだけ前のころ。
 帝都スチールグラード郊外で、魔物の群れに襲われている旅人を見かけた。みすぼらしい台車を引きながら、2頭のロバを引き連れている3人組だ。
 1人は男性、1人は女性、最後の1人はまだ幼い少女。きっと3人は家族なのだろう。
 チャロロの見知らぬ3人組だ。このように人気のない場所で、このように暗い時間帯に出歩いているのだから、魔物の群れに襲われるのも至極当然。彼らの自業自得と言える。
 見捨てても、誰もチャロロを責めないだろう。
 そもそも、チャロロが黙っていれば親子が魔物に襲われて、命を落としたことなんて誰にも知られることは無い。
 けれど、チャロロは迷うことなく駆け出した。
 本当に、ほんの一瞬の躊躇もなく、親子を助けるために疾走を開始したのだ。油圧ポンプが心臓部にオイルと熱を送り込む。
 関節の歯車が回転し、チャロロの走る速度を数段上昇させる。
 右手に機械の盾を展開し、左手にチャロロが持つには不似合いなほど大きな剣を構えたチャロロは地面に足を滑らせながら、親子と魔物の群れの間に割り込んだ。
「オイラが相手だ! あなた達は、今のうちに遠くへ逃げて! 速く!」
 機械盾で魔物の牙を弾き返し、大剣で魔物の脚を斬り払う。
 そうしながらチャロロは叫んだ。
 暫く、迷うような素振りを見せていた親子だが、やがて今にも泣き出しそうな顔をしてその場を駆け去って行った。
 親子が去っていく足音を聞きながら、チャロロは笑った。
 それでいい。
 それでいいのだ。
「さぁ、やろうか!」
 誰も知らない荒野のどこかで、魔物とチャロロの戦いがはじまる。

 どれだけの間、魔物とチャロロは戦っていたのだろう。
 いつの間にか、東の空には白い太陽が昇っている。右腕の皮膚は失われ、ミスリル合金の骨格と油圧チューブが剥き出しになっている。
 黒いオイルがだくだくと流れ、肘の部分からは時折火花が散っていた。
 腕だけじゃない。
 両の脚にも、背中にも、腹部にも、幾つもの傷を負っている。チャロロの身体が生身のそれであったのなら、きっと3度は死んでいるほどの大怪我だ。
 だが、チャロロは死んでいない。
 手足は重たく、動きは鈍いが、それでもチャロロは生きている。
「良かった。これぐらいなら、ハカセがきっと直してくれる」
 機械の身体を持つチャロロを見て、ハカセ……ミシャ・コレシピ・ミライ(p3p005053)はきっと、怒ったような、呆れたような顔をするのだ。
 どうしてこんな無茶をしたんだ。
 そんな風に怒って、呆れて、チャロロの身体を直してくれる。
「機械の身体で良かったなぁ……」
 東の空に昇る朝日をぼんやりと見つめ、チャロロはそう呟いた。
 その声には、ほんの少しの寂しさが滲んでいたように思われる。ポツリと零した空虚な声は、誰の耳にも届かないけれど。
 誰の耳にも届かないからこそ、チャロロはそんな言葉を零したのだろうけれど。

 無数のチューブに繋がれて、チャロロは手術台の上に寝かされていた。
 剥き出しになったミスリル合金の骨格には、幾つもの裂傷が刻まれている。背中や脚の皮膚は、一度剥がして張り替えなければならないだろう。
 手足の油圧チューブも、幾つかは断裂していた。
「頭部が無事だったのが唯一の救いかな。これなら、すぐに動けるようになるわね」
 骨格や、重要な機関部品が激しく損傷していたのなら、数日か数週間か、チャロロの修理は遅れただろう。見た目の損傷に対し、重要部品の損傷が少なかったことを確認し、ミシャは安堵の溜め息を零した。
 手始めにミシャは、メスを使ってチャロロの脚部の皮膚を剥がした。剥き出しになった合金の骨格に絡むようにして、数本の油圧チューブが伸びている。
 漏れたオイルで黒く汚れた油圧チューブを新しい布で拭きあげて、傷の有無を確認した。10数本あるメインチューブのうち、無事だったのは2本だけ。
 残る8本は取り替えなければいけないだろう。
 チューブの根元を器具で絞めて、油圧を止める。
 1本ずつ、メスでカットしチューブを取り外していく。
「……いっそのこと、残りも全部、新品に変えておこうかしら」
 チューブには焦げた跡が窺える。
 高温に熱された油が、何度もチューブの中を駆け巡った証拠だ。それほどまでに激しい戦いを、チャロロは何度も繰り返し行ったということだ。
「……セ」
「うん?」
 眠っているチャロロの口から言葉が零れた。
 ミシャは作業の手を止めて、チャロロの顔へ視線を向ける。
「ありがとう」
 はっきりと、チャロロはそう口にした。
 ミシャに……チャロロの身体を機械化し、人でなくした張本人に彼は礼を言ったのだ。
「お礼を言われるようなことは……何もしていないんだけどね」
 なんて。
 誰にともなく、ミシャはそう呟いたのだった。
執筆:病み月

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