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幕間

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『仮面の舞姫』

関連キャラクター:雨紅

時雨れの君
 黒死、接吻されたような、ゾクリとなる気分に触れたのはおそらく、私の気の所為なのだ。悪魔に誑かされた、天使に剥奪された、如何しようもないほどの異端性が脳髄に突き刺さっている。成程、全ては私の妄想なのだろう。総ては私のヒネクレ具合なのだろう。しかし観察すれば観察するほどに地獄とは『こう表現すべき』なのだと踊り子が微笑む。
 感情――人間には必要不可欠な、ひどくグロテスクな要素が仮面に隠されている。嗚呼、そうで在ればどんなに、良かったのだろうか。奇怪な事に口元、厭の赫々とした艶めきが喜怒哀楽を感染していくのだ。まわる貌は私よりも大きく、まるでブラック・ホールが如くに人々を魅了し、吸い込んでしまう――終いは何時なのかと、隣の誰かさんに訊ねてみた。アンタが満足するまでだよ。アンタが楽しめなけりゃ、意味がないじゃないか。
 私はようやくお姫様に出会えたのだ、と、思い始めていた事に気付く。深々と投げ込まれたコインがからからと幻想を嗤うかのよう。つまり私こそが一番、踊り子に酩酊していたのだ。もっと見ていたい。もっと覗き込んでいたい。もっと、溌溂と、鮮明と、病的な儘に――あなた様に笑顔を。現こそが自然体なのだと諭されたのか。
 日常を手放してはならないと人間は跪くものだが、私は非日常、オペラに狂わされても仕方がないと感じた。沸騰する拍手の中でふらりと盲目のような性質に囚われる。あ、あの――無意識の最中、私はアナタに息をかけた。
 ――また、魅せてくれませんか?
 がらがら、がらがら、蛇行じみてキャラバンが歌う。
 謳い、仄めかす通り雨が瞼をたたいた。
執筆:にゃあら

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