PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

食育記録

関連キャラクター:ジェック・アーロン

You made my day.
「お昼ごはん、付き合ってよ」
 何かの折に、ジェックがそうアーリアへと切り出したのは、ほんの数十分前の話。
 二人が特に用もなく街に出たり、ぶらついたり、気さくに話す程度には長い付き合いになっていた。
 小洒落た喫茶店でメニューを流し見して、パスタやサラダ、スープなどをめいめいに注文して、出てきた料理に舌鼓を打ち。
「慣れたものねえ。ごはんの食べ方」
 そうして、ふと、アーリアが言葉を零した。
「え? ……そうだね。みんなにたくさん、手伝ってもらったし」
 ガスマスクが外れたとき。アーリアを含む何人かの友人たちがこぞって彼女のためにパーティを開いたことを思い出した。
 初めての固形食、初めてのカトラリー……。
 優しく使い方や食べ方を教えてくれたおかげで、今はすっかり食事を摂る事に不自由をしていない。
「もう少しで、二年経つのねえ」
「……うん」
 自身が食べる姿に注目されて小恥ずかしいのか、フォークをゆるゆると皿から空へと。
 そのきれいな手に目をやると、いつか痩せぎすだった少女の手は、今はいい意味でふっくらとしていて。
 それが少しずつ、大人の女性への階段を登っているようにも思えて──当時を知るアーリアは、人知れず笑みを深めた。
「ジェックちゃん。ケチャップ、口元についてるわよ」
「ありゃ。ハネちゃったかな」
「じっとして──」
 どことなく嬉しそうにハンカチで拭ってあげるアーリアに、少しだけむくれるような素振りをジェックがしてみせる。
「……アタシ、一応お姉ちゃんだったんだけど」
「あら。じゃあ、妹みたいな気持ちになるのも新鮮でいいんじゃないかしら?」
 熟れたやり取りが心地よく思えるのは、互いに『きょうだい』がいたからこそ、かもしれない。

 ──優しい陽が差す、このテーブルでふたり。
 小さな幸福を、美味しいものと一緒に噛み締め合って。
執筆:りばくる

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