PandoraPartyProject

幕間

食育記録

関連キャラクター:ジェック・アーロン

ジャンキー・ファンキー・ハンバーガー!

「ジェック、ハンバーガーって食ったことある?」
「はんばーがー……?」
 シラスはジェックに問うた。首をかしげるジェックの脳内を埋め尽くすのは、紙に包まれたあれ。その中身を知らないのは明らかで、でも素直に首を縦に触れないのも明確な事実で。
「……わかんないな」
 ガスマスクをつけていた昔ならばともかく、もう今は口元を阻む障害物は何一つ無い。
 シラスはお、と嬉しそうに声を挙げて、告げた。
「お、じゃあ今から一緒に食いに行かない?」
「……イイの?」
 長い睫毛がふわふわと揺れる。
「おう! それじゃあ再現性東京の駅前のあそこに行くかな」

 ―—ということで。

「ジェックは何にする?」
「どれが美味しいのか解らないな……シラスのオススメは?」
「俺は……無難にこの辺がオススメなんだけど、ジェックが気になるものを食べるのもアリだも思うぜ」
「ん~~……じゃあシラスのオススメにしようかな。注文はどうしたらいい?」
「今回は俺が奢るから、ジェックは席の確保をお願いできる?」
「了解。待ってるね」
「おうよ!」

 店内を駆けるアップテンポな音楽。足でリズムを刻みながら、店の全てに目を凝らす。
(ふぅん……親子連れも学生も居るんだ)
 不思議だ。
 色んな客がいる。女性受けを狙ったカフェでも男性人気を狙ったステーキ屋でもない。ジャンクフードとはこうも人を誘うのだろうか。
 そうこうしている内に、シラスが後ろからひょっこりと現れてカウンターテーブルにおぼんを乗せる。ポテトとハンバーガー、それから甘い炭酸飲料だ。
「おお……」
「ま、何も考えずに食ってみなよ。美味いぜ?」
「うん……」
 強敵と対峙するような表情のジェックに吹き出しそうになるのを抑えたシラスは、ポップな包装を外してジェックがハンバーガーにかじりつくのをうきうきと待つ。
「い、いただきます……!」
 がぶり、と大きく口を開けてかぶりついたジェック。少し大きく行きすぎたのだろう、両頬がぷっくり膨らんで口の周りにはソースがついている。
「っはは、ジェック、ここ」
「……!??」
 シラスが頬を指差せば、ぽかんとしていたのを瞬時に切り替えて、ジェックは口の周りをごしごしと拭いて。
「…………美味しい」
「だろ? ジェックも気に入るといいな」
「多分また食べると思う……けど、ソースが……!」
「ま、そこは慣れるまでの辛抱ってやつだな」
 シラスがお手本を見せるようにハンバーガーを食べ、綺麗な口の周りを見せればジェックは不満げに頬を膨らませる。
 口内を満たしたパワフルでジューシーなジャンクフードの味わいは、ジェックにはとても刺激的で。恐らくきっと、記憶から離れることはないだろう。
執筆:
この幕間はフィクションであり、実在の店とは関係ありません。
 再現性東京、カフェ・ローレット。
 夜妖退治の仕事をを終えたジェックは、グラスの底に僅かに残ったアイスティーをストローで啜ると「おなかがすいた」とぽつり零す。
「何か軽食でも頼みましょうか?」
「なんか違うんだよね。肉とか、なんかこう……もうちょっと重いやつ」
 向かいの席で珈琲片手に希望ヶ浜経済新聞を読みながら寛治が問うも、ジェックは気乗りせず。
「なるほど。で、あればその案件私にお任せください」
「いい店知ってるの?」
 旨い飯、食わせてやりましょう――寛治の眼鏡が光る。

「師匠のいる所拙者あり!」
「来たぜヒュー! 新田さんゴチになりやす!」
「……呼んだ覚えはないのですが、まあジェックさんもお二人ならば歓迎でしょう。あ、伊達さんは成人ですので私と会計折半で」
「えっ」
「よろしく、チヒロ」
「やったー! ありがとうございます世界の伊達千尋殿!」
 カフェ・ローレットからバスに揺られることしばし、寛治がジェックを馴染みの店にと連れてくる。
 何故か途中で出会ったルル家と千尋も着いてきたがまぁよしとして――エレベータを上がった先でおかえりなさい、と店員に温かく迎えられる。
 手書きの今月のメニューから寛治があれもこれもと注文していく中、お通しはサラダかナムルかと聞かれ、全員寛治おすすめのナムルを選ぶ。
 寛治は店員に任せた日本酒、千尋はビール、未成年のジェックとルル家は特製のぶどうジュース。ワイングラスに入ったそれはまるで大人みたいだとジェックの心をくすぐった。
「乾杯!」
 寛治の妙に手慣れた乾杯の音頭からはじまり――その店の料理は、なるほど何一つ外れない。
 塊の肉は堅いものだと思っていたジェックにとって角煮の柔らかさは衝撃的だったし、店主の伝手で手に入れたという干物は艶々と油で輝き美しかった。
「そしてこれが今月の私の一押しです」
 どんと置かれた肉の圧。旬のアスパラを肉で巻き、更にもう一度肉で巻く――暴力的な程の旨味は、ジェックにとって衝撃としかいう外なく。
「これは……反則だね、うん」
 いざ二個目を、と箸を伸ばし――皿に残った肉の数に、ジェックは絶望する。
「……ねぇ、これあと二個しかない」
「私はいつでも食べられますので、お三方でどうぞ」
 ジェック・ルル家・千尋の目線がかち合う。
「うおー唸れ拙者の右手!」
「チヒロとルル家相手だって、今日ばかりは負けないよ」
「Do or Die――クリティカルで勝つだけだな」
「あ、私次の日本酒を」
 淡々と飲み進めながら次のファンド対象をaPhoneで物色する寛治はさておき。
 肉戦争の参加者三人は無言で頷くと、腕捲りをし――さて、じゃんけんの結末やいかに?
You made my day.
「お昼ごはん、付き合ってよ」
 何かの折に、ジェックがそうアーリアへと切り出したのは、ほんの数十分前の話。
 二人が特に用もなく街に出たり、ぶらついたり、気さくに話す程度には長い付き合いになっていた。
 小洒落た喫茶店でメニューを流し見して、パスタやサラダ、スープなどをめいめいに注文して、出てきた料理に舌鼓を打ち。
「慣れたものねえ。ごはんの食べ方」
 そうして、ふと、アーリアが言葉を零した。
「え? ……そうだね。みんなにたくさん、手伝ってもらったし」
 ガスマスクが外れたとき。アーリアを含む何人かの友人たちがこぞって彼女のためにパーティを開いたことを思い出した。
 初めての固形食、初めてのカトラリー……。
 優しく使い方や食べ方を教えてくれたおかげで、今はすっかり食事を摂る事に不自由をしていない。
「もう少しで、二年経つのねえ」
「……うん」
 自身が食べる姿に注目されて小恥ずかしいのか、フォークをゆるゆると皿から空へと。
 そのきれいな手に目をやると、いつか痩せぎすだった少女の手は、今はいい意味でふっくらとしていて。
 それが少しずつ、大人の女性への階段を登っているようにも思えて──当時を知るアーリアは、人知れず笑みを深めた。
「ジェックちゃん。ケチャップ、口元についてるわよ」
「ありゃ。ハネちゃったかな」
「じっとして──」
 どことなく嬉しそうにハンカチで拭ってあげるアーリアに、少しだけむくれるような素振りをジェックがしてみせる。
「……アタシ、一応お姉ちゃんだったんだけど」
「あら。じゃあ、妹みたいな気持ちになるのも新鮮でいいんじゃないかしら?」
 熟れたやり取りが心地よく思えるのは、互いに『きょうだい』がいたからこそ、かもしれない。

 ──優しい陽が差す、このテーブルでふたり。
 小さな幸福を、美味しいものと一緒に噛み締め合って。
執筆:りばくる

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