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幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

天目工房開発録

関連キャラクター:天目 錬

鋳とは柱。或いは、山村の神器…。
●鋳
「鋳とは柱。鋳造とはつまり、万物の柱……すべての中心だ」
 例えば、柱が弱ければ家はあっという間に潰れてしまう。
 背骨が折れては、人はまっすぐ立つことも出来ない。
 どこかの国では、世界とは巨大な1本の樹によって支えられているという伝承もある。
 暗い小屋の片隅で、天目 錬は煌々と燃える炉へと視線を向けていた。
 頭に捲いた手拭は、汗を吸い込みすっかり色を変えている。
 頬から首へ、滝のように汗が流れた。
 炉から視線を逸らさぬままに、錬は腕を伸ばして水瓶にかかった柄杓を掴む。生温い水を一杯、一息に飲み干して肺に溜まった熱い空気を吐き出した。
 炉の中には、すっかり溶けた銅がある。
「……よし」
 並々と器に注がれた銅を引き抜いて、傍に置かれた金型の中へと流し込んだ。
 鋳造。
 加熱して溶かした金属を型に流し込むことで造る金属製品だ。
 鍛造と異なり金属強度の面で劣るが、手間がかからず量産も容易……練ほど腕があれば、金型に複雑な模様を刻むことも可能となるだろう。
 金型は3つ。
 銅鏡、銅鐸、そして銅剣。
 豊穣のある山村で古くより祀られる神器である。
「以前の神器は、村を災厄から守ったことで崩れ去ったと聞いているが……俺の造った神器にも同じことが出来るだろうか」
 極限まで話を単純化してみれば、村に伝わる神器はどれも単なる“銅”だ。
 そこに魔術的な仕掛けなどは無く、ましてや神の存在さえも不確かなものでしかない。
 以前の神器が村を災厄から守ったという話からして、信憑性という面ではあまり高くないというのが錬の見立てだ。
 それでも、これらの神器は村にとって大切なものだということは分かる。
 銅鏡、銅鐸、銅剣……これら3種は、村の柱なのだろう。
 村に住まう人々が、まっすぐに前を向いて生きていくには、これらが必要不可欠なのだ。
 だからこそ、錬は仕事を引き受けた。
 己の知識を総動員し、技術の粋を尽くして作った金型には村の存続を願う祈りが細かに彫り込まれている。
「後は冷え固まるのを待つだけ……あぁ」
 いい仕事をした。
 今にも倒れてしまいそうな疲労感と、そんな満足感を胸に抱いて、錬は流れる汗を拭う。

・銅鏡、銅鐸、銅剣
豊穣のとある山村に祀られている3種の神器。
3つ揃ってこそ意味を成すものと伝わっており、村に降りかかる災厄を払う力を持つという。
古くから村に伝わっているもので、これまで何度か代代わりをしている。
村に降りかかる災厄を退けると力を失い崩れ去るというが……真偽のほどは不明である。
そもそもからして“どのような神”に関係する神器なのかも定かではない。
練の鋳造した今代の神器には、錬が考案した「村の存続を願う祈り」が細かに彫り込まれている。
執筆:病み月

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