イラストSS

●息白し
『ああ。もう、夜が明けるなぁ』
　シャイネンナハトの夜に、再現性京都を訪ねた雨紅が向かったのは『はづきさん』の元。しかし狐面の敷地に憩いの場はなく、馴染みの寺の縁側で朝日を待っていたのだ。
　夜更かしの供は、マグカップのココア。この地なら茶でもよかったかもしれないが、少しばかりのシャイネンナハト気分だ。
「あっという間でしたね。遠い山から昇ってくるのが、よく見えますよ」
『うん。雪にもよう映えて。眩しいなぁ』
　温かいココアを飲んで一息つけば、白い息が雪明かりに溶けていく。
　あらゆる音も、光も闇も。全て、優しく白く溶けて、輝いていく。
『なんか、あった？』
「……ええ。色々、ありました」
『そっか』
「……けれど。後悔だけは、していません」
『そっかぁ』
「あなたとの出会いも、この時間も含めて。全て……私の大切な支えなのです」
　昇ってくる朝日に、雨紅の緋色の装束が照らされてゆく。同じように、ずいぶん着膨れた狐面の蒼も照らされていった。
『支えと執着は、表裏や。自分を呪うて縛ったらあかんえ』
「それは、はづきさんもですよ」
『せやなぁ』
　未だ街が起き出す前。二人は内緒噺のように笑った。

　※SS担当：旭吉