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「……びっくりした」/SN2023
「……びっくりした」/SN2023
イラストSS
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「飲みすぎないように、ね」
「ん。ありがとう」
湖は矢張り冷えるから程々にと上がり、酒の約束を果たそうかと移動を促した雨泽が誘ったのは、賑やかな会場の隅。落ち着いた雰囲気を楽しみたい者たちが楽しむ其処へと腰を落ち着けて、チックに手渡した猪口へと清酒を注いだ。
「チックと酒を呑める日が来て、俺はすごく嬉しいよ」
「おれも、雨泽と初めてのお酒、できて……うれしい」
「酒の味はどう?」
「……にがい、感じ?」
「酒精は少し苦いかも。まだ少しお子様なのかな」
「……お子様、ちがう」
ムッとしてみせれば雨泽が楽しそうに笑い、その表情にチックは少し安堵した。小舟の上で「……ありがとう」とだけ返した雨泽は困ったような表情になってしまったから。
今もまだ、何処となくぼんやりとしている。
言ってしまえば、隙が多い。
朱塗りの盃に時折口を落としながら天の灯りへと視線を向けている横顔。その顔をチックが見上げていることにも気づかないし、チックが猪口を盆に戻した事にも気付いていない。
「雨泽。おれ、子供じゃない、よ」
「チック?」
袖を引いて、足に手を置いて、身を乗り出して。
そこまでしても雨泽はいつも通り吸血かなと思っている。
だから、そっと唇を重ねた。
「意識、して?」
伏していた睫毛を持ち上げて間近で見た瞳は見開かれていて。その表情が猫のようで愛しくなって微笑んでやれば、ぐらりと雨泽の手から盃が滑り落ちて――。
※SS担当者:壱花