イラストSS

　くそ上司！！！！！！！！！！！

　人生において、もしかしたら佐藤美咲が最も多く口にした言葉である。
　もし彼女に決め台詞があったとしても、それ以上に述べているだろう。脳内でこっそり述べたものも含めればぶっちぎりのトップワードだ。
　そして今日。シャイネンナハトの夕刻。その記録はまた更新されたのであった。
「ミサちゃん、クリスマスに呼び出してごめんなさいね？」
　にっこり笑う高橋 真由美。
　練達00機関国外諜報室長、という肩書きを持つ美女である。その美しさがただの飾りで無いことは、その肩書きが物語っている。
　だったら呼ぶなと心の中で怒鳴ったが、美咲は腰の後ろで手を組む振りをして中指を立てるのみに留めた。
（混沌ではクリスマスじゃなくてシャイネンナハトなんスよ）
　とも、心でツッコミをいれておく。
　が、呼び出された理由がわからないわけではない。
「佐藤、私達の扇動は一般市民に紛れて出どころがわからないようにやるものだ。お前は研修の初歩の初歩も忘れたのか？」
　両手を組みテーブルに肘を付け、眼鏡を怜悧そうに光らせる鈴木 智子。彼女の肩書きは、国内防諜室長である。
　やはりその件か、と美咲は内心でつぶやきながら無表情を貫く。
「鉄帝が滅んでも日本は滅ばない事はわかるでしょ？　帰った後も仕事はいっぱい在るんだから、そのチャンスを掴むときまで私達は生き残らなければならないの。違う？」
（いつものことだけど、こいつら元の世界の日本のことしか考えてないな）
　練達の悲願に『己の世界への帰還』があることは知っている。彼女たちにとっても混沌への召喚はイレギュラーな事態であり、本国との連絡途絶を意味する。今本国がどのような状態になっているか、そもそも時間の進みはこちらと同じなのか。なにもかもが分からない。月の裏側にでも飛ばされたほうがまだマシという状況に見えているのだろう。
「神託にある＜D＞は私達の祖国をも滅ぼします。それを防ぐために冠位魔種の討伐は必須でしょう。
　それに、あの場で戦力確保のために動くのは、致し方ない行動でした」
「人道支援は認めよう。私達と司法取引をした時に比べればまともになったものだ。だが、お前の命はまず日本のために在ることを忘れるな」
　美咲は無表情のまま「は」と短く返事をした。
（私、帰る気はさらっさら無いんスけど…お前らの国に帰るなら鉄帝のアホどもの方が数千倍マシ。
　あー、イライラする。後でローレットの面子にやけ酒に付き合ってもらおっと……）
　美咲は最後にもう一度見えない所で中指を立て、この話を終わりにしたのだった。

　※SS担当：黒筆墨汁