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雪爛漫
イラストSS
「黄龍、瑞! 輝かんばかりのこの夜に!」
慌てた様子で駆け付けるシキは「すっかり遅くなっちゃったね」とどこか困ったような笑みを浮かべていた。
忙しない日々を送っていたけれど、四季折々に黄泉津瑞神や黄龍と共に過ごしたい。
二人に寄り添うことで感じられる安寧は、何ものにも変えがたい。
シキにとっての黄龍は止まり木だ。神霊の二人は変わりなく、淀みなく。ただ、あるがままである。
その存在は停滞し、其処にあり続けることが当たり前なのだ。
「来ると思っていましたよ、シキ」
「うむ。吾らは人ほど刻の流れに敏感ではないからのう。余り気に止めなくても構わない」
黄龍は「何をする?」と楽しげに問い掛けた。縁側に腰掛けたシキは「どうしようかなあ」とぱちくりと瞬く。
「何も準備出来なかったんだ。慌てて来ちゃったから」
「お忙しいのですか?」
「うーん、まあ、色々かなあ」
シキが肩を竦めればその膝にころりと瑞神が転がった。赤子の姿をした神霊は口寂しいだろうと手渡されたおしゃぶりを吸いながらシキを見上げる。
「今日はのんびりとできるのでしょうか」
「うん。二人と一緒にね」
「ならば、雪見でもしようかの。ほれ、寒いしの」
体を寄せ合えば暖かいだろうと黄龍はシキを背後から抱きすくめた。大人の女の姿をした黄龍が身に纏うのは豪奢な和装だ。
衣の暖かさだけではない。彼女から感じる温もりに加え、幼子の姿をした瑞神の体温は眠気をも誘う。
「眠たくなるね」
「わたしも、赤子の姿の時は良く眠たくなってしまうのです」
降りしきる雪に触れたら起きるけれどと冗談めかして笑った瑞神に黄龍がくすりと笑みを浮かべた。
それに浮かんだ月の丸さも、覆い隠すようにたなびいた雲に降りしきる雪も。
この豊穣郷の美しさを表しているようで、シキは迚も好きだ。
「ねえ、少しお腹が空いちゃったね」
「実は洋菓子……けぇきは買ってあるのですよ。賀澄が持ち寄ってくれました」
甘くてクリームがたっぷりなのだと頬を緩めた瑞神にシキは「美味しそうだね」と頷いた。
「それから……食事はおせちであればあるのですが」
「お、おせち?」
「はい。わたしが趣味で作っているのです」
食べませんかと誘う瑞神に黄龍は「この時間からおせちを食べるとは正月の先取りよな」と快活に笑う。
そんな二人にシキはぱちくりと瞬いてから「見るだけ見ようかな?」と首を傾げたのであった。
*SS担当:夏あかね