イラスト詳細
さむさにもまけないくらい
さむさにもまけないくらい
イラストSS
はらはらと雪の降りしきる小高い丘は、街中よりもきっとうんと寒い。
眼下に見える街並みがこんなに美しく見えるのは、今夜がシャイネンナハトの夜だからだろうか。
ふたつのバイクは向かい合ったように停められており、この場から光り輝く街がよく見渡せた。
「どうぞ」
「ん、ありがとう」
すぐ傍に佇む自販機で買った缶のひとつをヴァイオレットが手渡せば、シキは目を細めて受け取る。
まだあたたかいそれのプルタブを引き上げると、雪と同じくらいしろい湯気がふわりと満ちた。
「今年もいい聖夜が迎えられたねぇ」
「おや。ワタクシとのツーリングが、いい聖夜でしたか」
「勿論」
大切な約束同士の、何気ないこのひとっ走り。それはひととせの締めくくりにはぴったりの、素敵な夜に違いなかった。
「来年のシャイネンナハトは何処を走ろうか」
「それなら、今日よりもっと景色のよい場所を探さないといけませんね」
こん、と。ふたつの缶が軽くぶつかったなら、それがふたりの乾杯の合図。
ひと口飲めば、あたたかな部屋のなかでの一杯よりも、もっと貴重で大切な一杯の味がする。
雪はしんしんと、さやかに降りしきる。そのぬくもりは、とてもかすか。
けれど決して、ふたりの見つめる街と、人のかがやきが絶えることはない。
※SS担当者:遅咲