イラスト詳細
炬燵と褞袍、温かな晩餐
作者 | ぺいゆ |
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人物 | ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ ヴァイオレット・ホロウウォーカー 小金井・正純 タイム アーリア・スピリッツ |
イラスト種別 | 5人ピンナップクリスマス2021(サイズアップ) |
納品日 | 2021年12月24日 |
イラストSS
「やああだああまだ食べるぅぅ!!」
眠たいけど食べたい幼児の駄々だろうか、いやベロベロだけど食べたいタイムの渾身の叫びである。
お椀はもう何回空になったかわからないし、グラスの中の酒は何杯彼女の胃に流し込まれたかわからない。医者が診れば「食べ過ぎと飲み過ぎですね」なんて診断が降りそうなくらいだというのに、タイムはまだまだおでんが食べたかった。
「タイムちゃん、お水もちゃんと飲まなきゃだめよぉ?」
アーリアが透明な液体の入ったグラスをタイムに渡している。尚、中身は日本酒である。アーリアの毛先も鮮やかな黄色に染まっているあたり大方ビールでも流し込んだのだろう。素で間違えたのか、はたまた『面白いし可愛いからもう少し酒を入れてみよう』という好奇心なのかはわからないが、差し出された『お水』を「ありがとう! アーリアちゃん!」とタイムが秒で飲み干してしまったので結局同じ事なのだが。
「もう、あまり揶揄ってはいけませんよ? おかわり持ってきましたからね」
「!!」
苦笑いをしつつ正純がグツグツと煮えたおでんをたくさん詰め込んだ鍋を持ってきた。食べますか? と聞く前に勢いよくお椀が差し出されたので、正純はクスクスと笑った。
「まふぇふぁいむわふぁふぃもふぁへふ!!」
「ベルフラウさん、何を言っているかわかりませんよ」
指摘され、はっとしたベルフラウが咥えたままだった半平を急いで噛み砕いて胃の中へと押し込んだ。普段の凛とした佇まいからは想像もできないが、彼女だってたまには赤いどてらを着て炬燵に引っ込んでおでんも食べる。
「私も食べる!!」
「はい、どうぞ」
差し出されたお椀に好きな具材をよそってやり、タイムとベルフラウの前に置いてやると「頂きます!」と元気な声が響く。
「それにしても本当に美味しいですね、流石正純様です」
「お粗末様です、ヴァイオレットさん寒くありませんか?」
「ええ、此処はとても暖かいですから」
そう、とても暖かい。
優しくて、心地よい陽だまり。
彼女らの楽しそうな、幸せそうな笑顔に自然と笑みが零れる。まるで自分にも幸せが訪れたように心の中に優しい火が灯る。それと同時に心が割れそうな程に渇いて、飢えを訴えて暴れ出しそうな苦しみも訪れる。それでも、今日は何故かいつもよりはずっと軽い。
「聖夜の奇跡だなんて、ワタクシには無縁だと思っていたのですがね」
偶には信じても良いでしょうか――?
※SS担当者:白