イラストSS

●ジーニアス・ゲイム
「君も懲りないね」
　暖炉の火が燃えている。
　寒さも侵入する余地のない部屋の一室では『熱戦』がいよいよ佳境を迎えていた。
「生憎と負けず嫌いなのです」
　向かい合うクリスチアンと幻はシャンパンを片手にチェスを嗜んでいた。
（しかし、言うだけはあるのですよね）
　幻の腕前はかなり控え目に言ったとしても『大抵の相手なら簡単に負かしてしまう程』であるが、彼女の変幻自在の攻め手さえ見事に受け切り、その僅かな隙を突き崩してくるクリスチアンの方は間違いなくグランドマスターと呼べるレベルの腕前であった。
「そろそろチェックかもね」
「いえいえ、まだまだ」
　幻は微笑んだが、彼女もそれは分かっていた。
　恐らく今夜も負けるだろう。この先も勝つのは正直難しいのだろうが――
（不思議ですね。負けた方が心地良いとは）
　――女心も複雑だ。
　自分自身、評価し難い感情は盤面の上と同じだった。
　白と黒の駒が踊り、ジーニアス・ゲイムは更けていく。
「どうだい？　まだやるかね？」
「……ええ、ええ。まだまだ、『これから』」
　遠くて近いこの先の、終わりに向けて幕間の全てを翻弄していた。