イラストSS

　幸も不幸も、心を満たすには程遠い。邪神の神性を宿したこの身は、寒さにさえも見放された空虚な――
「ねぇねぇ、ヴァイオレットちゃん！　この服どう？」
「あっ、可愛い……ではなくて！」
　焔の元気な声に流されて、ヴァイオレットは鏡に映る自分の姿をまじまじと見つめてしまっていた。しかしすぐにハッとして、あてられていた青いジャケットを片手で退けようとする。
「うーん、やっぱりこっちの方がかわいいかな？　でもさっきのも可愛かったしなぁ。
　見た目も大事だけど、あったかさも重要だよね！　ヴァイオレットちゃんはどっちがいいと思う？」
「いえ、だからワタクシは別に、邪神の身体を持ってますから寒くなんて……」
「これがいいよヴァイオレットちゃん！　ほら、着てみて！」
「あの、焔様？　ですから……あの、話を…」
　誘惑に秀でた魅惑のプロポーション。それは邪神に与えられたもので、ヴァイオレットは自身の身体を好いていない。ましてや着飾る事なんて。そう思い続けていたのに――
　選んでもらったパープルカラーのダッフルコートは、嗚呼。
「今日はヴァイオレットちゃんを温かくて可愛い恰好にするための日だから！　ボクに任せてよ！」
「……はい」
　輝かんばかりのこの夜に、心に奇跡と温もりを。


　※SS担当者：芳董