イラストSS

　スラム街の聖夜を彩る炎の色は、鮮やかであった。神を称える歌を口ずさむ者がいれば、祭りに酔う者もいて――。

「おほほほほ、キャンプファイアーでございますわ！！！！！！」
　純白の法衣を着た司祭ヴァレーリヤが勢いよくお神酒もといウォッカをゴミ箱に注ぎ火をつければ、灼熱の炎が燃え上がる。彼女の赤い髪よりもさらに赤い、地獄の業火の如き炎。尼僧の白い肌を、ぎらりぎらりと赤い光が照らす。

　さあ、魔宴が始まった。

　聖夜にお馴染みのサンタクロースの赤い衣装を見につけた義弘は、どう見ても堅気に見えぬ屈強な肉体。いきなりの狂気の宴に「なんだてめーらスッゾコラ」と殴りこみに来たごろつきの首を掴み、雄叫びと共に執拗に殴りつけている。片手に持った酒瓶は割れ、凶器にぴったりだ。
　義弘による暴力的シャイネンナハトのプレゼントを喰らったのは一人だけではなかった。義弘の周囲に襤褸人形のように倒れ伏すごろつき達。それらを身ぐるみ剥ぐ金髪の小柄なメイド、エッダ。きらきらと光るカラフルな電飾が機械の腕に巻き付いているが、それらはどこかの哀れなツリーから奪われてきたもの。ごろつきから剥がれた服や下着は、生贄のようにゴミ箱の炎へとくべられていく。
　ヴァレーリヤの後ろから次々に酒瓶を差し出すのは赤いマフラーも鮮やかなサイドポニーの少女、秋奈。彼女から受け取られた酒瓶の中身は司祭の手により聖別され……たようなされていないような。炎に注がれ、法と秩序に見放された一帯を更に明々と燃やす。酒の出所は聞いてはいけない気にしてはいけない。

　マリアは炎を見ながら横に立つ純白の女司祭が繰り広げる一面の阿鼻叫喚混沌地獄絵図に思いをはせる。
――ふふ、ヴァリューシャのキャンプファイヤーは本当に綺麗だな……。
　ウォッカを注ぎ込めば、炎はさらに激しく燃え上がる。ヴァレーリヤの高笑いは止まることを知らず、今新たなごろつきが地面に倒れれば、流れるように全身を剥がれ、供物が投げ込まれた劫火のゴミ箱に更に酒一本丸々投入され、炎は燃え上がりヴァレーリアは高笑いをし……。
――本当に綺麗だな……。
　めらめらと燃える炎の中に、彼女は何を見たのだろうか。
　
「ウィーウィッシュアメリーシャイネンナハト！」
「ウィーウィッシュアメリーシャイネンナハトゥ！」
　誰かが調子はずれに歌い出す。
　聖夜に顕現した地獄は、終わることなく。


　＊SS担当者：ろばたにスエノNM