ギルドスレッド スレッドの一部のみを抽出して表示しています。 小さな工房 【PPP3周年記念】Good morning,my naughty boy. 【キラキラを守って】 イーハトーヴ・アーケイディアン (p3p006934) [2020-07-22 23:50:58] 「おはよう、オフィーリア」 葡萄色の前髪の下、とろりと濃い蜂蜜色の双眸がふんわかと細められる。 私に「おはよう」の挨拶をしたのは、『おもちゃのお医者さん』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)だ。『おはよう、イーハトーヴ』 と彼にしか聞こえない声を返せば、ふにゃり、彼は嬉しそうに笑った。 世界から彼が賜った贈り物――『ギフト』の恩恵で、私は彼と言葉を交わすことができる。 ふわふわの綿ばかりをその身に詰め込んだぬいぐるみに、知能は、意思はあるのか。 それは、私にはわからない。 わからないけれど、彼と共にある時、私は彼に言葉をかけることができ、その為に、思考することができる。 ギフトの不可思議な力と彼の存在が、私に、私であることを許しているのだ。恐らくは。『あなた、髪が跳ねてるわよ』「え、本当?」『鏡を見たらわかるわ。服を着替えただけで身支度したつもり? 顔は洗ったの?』「洗ったよ。歯磨きだって勿論した。……けど、まだ眠くって。ぼーっとしてたから、寝癖には気づかなかったみたい」 彼の大きな手が、柔らかな髪を撫でる。 そのまま彼が大欠伸をする前で、私は、小さく嘆息した。『早く、直してきなさいな。その前に、私に時計を見せてね。……ああ、もうこんな時間。近くの食堂はきっともう、人でいっぱいよ』「そうだね。まあ、一食くらい抜いても……」『そう言って、昨日の夜も下で淹れてもらったホットチャイしか飲まなかったのをもう忘れたの? 食堂が駄目なら、商店街の露店でスープを買ったら?』 気に入ったんでしょう? と続ければ、「でも、」と零した彼の眉が、少し下がる。 だけどその口元は、幸福めいた笑みに彩られていた。「あのお店はね、一緒に行こうって友達と約束してるから、まだ駄目なんだ」『なら、その向かいのベーカリー。あなたのお気に入りはもう売り切れてるだろうけど、何もないってことはないんだから、我慢しなさい』「ねえ、オフィーリア。今更だけど、朝ごはんならローレットでも食べられるよ?」『駄目よ、少し歩くでしょう? この間みたいにあなたが倒れたって、私は手を貸してあげられないのよ』 そう。そうなのだ。 私は、彼とお喋りができるだけのぬいぐるみ。 自分の無力さを、私は、良質の綿が詰まったこの身いっぱいに知っている。 ああ、だけど――。「……わかったよ、オフィーリア。パンを買って、食べて、それからローレットに行く」『あら? やけに素直ね。サツマイモと林檎のデニッシュもチョコレートのパンももうないだろうし、サンドイッチだって1種類も残ってないかもしれないのに』「でも、いつもと違うものを選ぶのも、わくわくするでしょ? プリンクリームのパン、ちょっと、気になってたんだ。それに、」『……それに?』「君に、心配ばかりかけたくないものね」 どの口が言うのかしら、とは思うものの、こちらへと向けられた彼の眼差しは優しい。 だから私はもう一度だけため息を吐いて、『わかったから、早く寝癖を直してらっしゃい』 とだけ、彼にしか届かない、けれど確かに彼にだけは届く声で、テキパキと紡いだ。 →詳細検索 キーワード キャラクターID 検索する キャラクターを選択してください。 « first ‹ prev 1 next › last » 戻る
葡萄色の前髪の下、とろりと濃い蜂蜜色の双眸がふんわかと細められる。
私に「おはよう」の挨拶をしたのは、『おもちゃのお医者さん』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)だ。
『おはよう、イーハトーヴ』
と彼にしか聞こえない声を返せば、ふにゃり、彼は嬉しそうに笑った。
世界から彼が賜った贈り物――『ギフト』の恩恵で、私は彼と言葉を交わすことができる。
ふわふわの綿ばかりをその身に詰め込んだぬいぐるみに、知能は、意思はあるのか。
それは、私にはわからない。
わからないけれど、彼と共にある時、私は彼に言葉をかけることができ、その為に、思考することができる。
ギフトの不可思議な力と彼の存在が、私に、私であることを許しているのだ。恐らくは。
『あなた、髪が跳ねてるわよ』
「え、本当?」
『鏡を見たらわかるわ。服を着替えただけで身支度したつもり? 顔は洗ったの?』
「洗ったよ。歯磨きだって勿論した。……けど、まだ眠くって。ぼーっとしてたから、寝癖には気づかなかったみたい」
彼の大きな手が、柔らかな髪を撫でる。
そのまま彼が大欠伸をする前で、私は、小さく嘆息した。
『早く、直してきなさいな。その前に、私に時計を見せてね。……ああ、もうこんな時間。近くの食堂はきっともう、人でいっぱいよ』
「そうだね。まあ、一食くらい抜いても……」
『そう言って、昨日の夜も下で淹れてもらったホットチャイしか飲まなかったのをもう忘れたの? 食堂が駄目なら、商店街の露店でスープを買ったら?』
気に入ったんでしょう? と続ければ、「でも、」と零した彼の眉が、少し下がる。
だけどその口元は、幸福めいた笑みに彩られていた。
「あのお店はね、一緒に行こうって友達と約束してるから、まだ駄目なんだ」
『なら、その向かいのベーカリー。あなたのお気に入りはもう売り切れてるだろうけど、何もないってことはないんだから、我慢しなさい』
「ねえ、オフィーリア。今更だけど、朝ごはんならローレットでも食べられるよ?」
『駄目よ、少し歩くでしょう? この間みたいにあなたが倒れたって、私は手を貸してあげられないのよ』
そう。そうなのだ。
私は、彼とお喋りができるだけのぬいぐるみ。
自分の無力さを、私は、良質の綿が詰まったこの身いっぱいに知っている。
ああ、だけど――。
「……わかったよ、オフィーリア。パンを買って、食べて、それからローレットに行く」
『あら? やけに素直ね。サツマイモと林檎のデニッシュもチョコレートのパンももうないだろうし、サンドイッチだって1種類も残ってないかもしれないのに』
「でも、いつもと違うものを選ぶのも、わくわくするでしょ? プリンクリームのパン、ちょっと、気になってたんだ。それに、」
『……それに?』
「君に、心配ばかりかけたくないものね」
どの口が言うのかしら、とは思うものの、こちらへと向けられた彼の眼差しは優しい。
だから私はもう一度だけため息を吐いて、
『わかったから、早く寝癖を直してらっしゃい』
とだけ、彼にしか届かない、けれど確かに彼にだけは届く声で、テキパキと紡いだ。