偶然二人、休日だった。
偶然二人、私用もなかった。
或いは、偶然ではなく狙っていたのかもしれないが……。

兎にも角にも、何もない一日を自分のために欲しいとお願いしたのはアルヴァだし、偶にはと付いていったのは愛奈である。
向かう足は幻想国家中心部。そして、少し特別な日。

【時期】
少々肌寒くなってきた10月の上旬

【幻想国家】
収穫祭、オクトーバーフェスト。
ソーセージやハンバーガー等の出店があり、それを肴にワインとビールを飲み歩くことができる大きなお祭り。

　いい香りがする。
　肉が焼けるそれや、麦の香ばしい香り。

「流石に人が多いな、大丈夫か？」
　はぐれないように愛奈の手を右手で引いて、祭り会場にたどり着く。
　既に道という道に人が溢れ、露店の食べ物という食べ物、酒という酒に食らい付き、更には道端にはダウンして動けなくなっている輩もいた。

（引かれるまま）
ええ、大丈夫です……しかし多いですねこれは。
お祭りとはどこもこんな感じなんでしょうか…

「幻想は特に、だろう。フォルデルマン三世（バカ国王）とかこういうの好きそうだしな」
　一度、愛奈の手を離し、良さげな店が無いか探す。
　それはすぐに見つかったのか、一軒の露店の列に並ぶと、愛奈を手招きした。

「やっぱ、まずは肉だよな。酒もあるらしいが、愛奈は何にする」
　塩と胡椒で味付けする、シンプルなビーフステーキの串焼き。
　お供にワインを買う客が多く見えるが、生憎と彼は未成年だった。

私はこの世界の政治には…特に幻想は輪をかけて判りませんが…
為政者が派手好きだとこうもなるのでしょうかね。

ああ、ではそのビフテキを２人分と…
んー。私だけお酒を頂くのも…（少し迷っている）

「今日は無礼講だ。飲みたいなら飲んだらいい」
　少しずつ列が前に進んでいき、注文を聞かれればステーキ串を2本音、ワインを1杯と、ブドウジュースを注文する。
　少しだけ待ち、2人分のそれを受け取ろうとして気付く。

「ああ、愛奈、すまない。そっち持ってくれるか？」
　片手では紙に包まれたステーキ串2本しか持てず、木製のグラスに注がれた飲み物2つを持つことが出来ない。

いやまあ……私が気にしているのは礼儀云々よりもですね……あっ。まあじゃあ頂きますね。
（すっと注文されて）

はいはい。店員さん、受け取りは私が。
食べ歩きにしますか、アルヴァさん？

「潰れたら背負って帰ってやるさ」
　愛奈が受け取ったのを確認し、少し端の方へ。
　片手で持ったステーキ串の1つを愛奈へ差し出した。

「ああ、折角色々出し物が出てるからな。食べ歩きしよう」
　既に1本はアルヴァの口に咥えられている。
　ステーキ串を受け渡した後は、空いた右手でブドウジュースを受け取ろうとして……どちらがブドウジュースか見分けがつかず迷っている。

いや潰れる云々でもなくですね……まあ、うん。酒飲みにしかわからない感覚かもしれません……

ああどうも。頂きますね。
――あー…次はビールにしましょうかね私。
これは……（片方香りを嗅いで）……こっちがジュースでしょうかねたぶん。飲む前に嗅いでみてください。
（片方渡して）

「……？」
　意味が分からないというように首をかしげつつ。
　渡されたカップに鼻を近付け、スンスンと匂いを嗅ぐ。

「確かにアルコールの匂いは感じられないが……」
　と、中指と薬指の間に串を挟みつつ、舐めるように紫の飲み物を口に含むと、軽く頷いた。どうやらブドウジュースだったらしい。

「ん、愛奈はビールの方が好きだったか？」

――これは元居た世界（私の故郷）での、まあ何というか要らない気遣いの類なのですが。
「一人だけお酒を頂く」ってのは一種マナー違反的な風潮が在ったりなかったりするんですよ。
気にしすぎとも言いますが。

ああよかった。合ってましたね。未成年に飲ませたとなると大事ですし。
いえ、どっちも好きですが……ビールなら間違えないでしょう？

「別に、バレなきゃ何とやらって言葉があるくらいだし、少し飲む程度なら平気とは思うが……」
　自分だけ、という言葉に首を傾げながら言う。
　ステーキもブドウジュースも胃袋に収めてしまったのか、串をパキッと折るとカップの中へ入れる。

「確かにビールは独特な匂いがするからな。あの匂いからどんな味がするかは想像付かないが」
　次は何を食べようかと、キョロキョロ周りを見る。
　来る前に何も食べていないのか、お腹が空いていたらしい。