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噴水前の歌広場

【ヨハナ・ゲールマン・ハラタ】冬への扉

「波をね、消してるんだ」

 残暑厳しい季候ももうすぐ終わりを迎えようとしている。なまぬるいばかりであって文句を言っていた噴水も漸くひたひたとしていられる具合になった。りぃりぃと茂みから虫の歌が聞こえる誰そ彼時に感じ入るような様子でいながら足を浸し、俯いて水面を見つめながら彼女はそんなことを唐突に言った。
 ゆらめいた足がぱちと波紋を生み出して、映った青白い顔がゆらゆらと消えた。

「こんなちょろちょろの噴水でも、波は起きてるからさ。だから、蹴っ飛ばして消してみようって思ったんだよね。でも何度蹴っても消えない。新しい波が出来るばっかり」

 あーあ、がっかり。と言いながら楽しそうな顔で彼女はぱちゃ、ぱちゃ、と波風を立てる。何度も。何度も。何度も蹴って蹴って蹴っている。

 そんな彼女を目にした貴女は―――

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(疑問の間隙に生じた、戯れ合いの僅かな緩みを突いて)
(ざばりとのたうち体が持ち上がった)(持ち上がって)

(しばらく、過呼吸と嘔吐を同時に行う息遣いで俯いていた)
(時折、本当に口から水を吐いたり、吐きかけた水を過呼吸気味に吸いなおしながら)
(それはそれは、なにかの動物の鳴き真似をするみたいに、肩で息をして)

(引き笑いのように震える深呼吸を、繰り返し、繰り返し)

―――――ハァ――ッー

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