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噴水前の歌広場

【ヨハナ・ゲールマン・ハラタ】冬への扉

「波をね、消してるんだ」

 残暑厳しい季候ももうすぐ終わりを迎えようとしている。なまぬるいばかりであって文句を言っていた噴水も漸くひたひたとしていられる具合になった。りぃりぃと茂みから虫の歌が聞こえる誰そ彼時に感じ入るような様子でいながら足を浸し、俯いて水面を見つめながら彼女はそんなことを唐突に言った。
 ゆらめいた足がぱちと波紋を生み出して、映った青白い顔がゆらゆらと消えた。

「こんなちょろちょろの噴水でも、波は起きてるからさ。だから、蹴っ飛ばして消してみようって思ったんだよね。でも何度蹴っても消えない。新しい波が出来るばっかり」

 あーあ、がっかり。と言いながら楽しそうな顔で彼女はぱちゃ、ぱちゃ、と波風を立てる。何度も。何度も。何度も蹴って蹴って蹴っている。

 そんな彼女を目にした貴女は―――

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そこからどういう道筋を辿ったかは覚えていない。
じっとしていると思考に攫われそうで、できるかぎり考えなしに歩いていた。
一歩踏み締めるたびに、節々の痛みが思考を麻痺させてくれる。
被り物のおかげで曇った視界と、荒い呼吸は集中力を余計に削いでくれた。

そういえば、なんでこんなものを被っていたのだろうか。
なんだか有害なものから身を守るために装着していた気がする。
それすらもよく分からない。

指先で引っ掻くように顔を撫ぜると、それは布と樹脂でできているように思えた。
隙間なく肌に密着したそれを乱暴に引っ張り、剥ぎ取って
その瞬間

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