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噴水前の歌広場

【ヨハナ・ゲールマン・ハラタ】冬への扉

「波をね、消してるんだ」

 残暑厳しい季候ももうすぐ終わりを迎えようとしている。なまぬるいばかりであって文句を言っていた噴水も漸くひたひたとしていられる具合になった。りぃりぃと茂みから虫の歌が聞こえる誰そ彼時に感じ入るような様子でいながら足を浸し、俯いて水面を見つめながら彼女はそんなことを唐突に言った。
 ゆらめいた足がぱちと波紋を生み出して、映った青白い顔がゆらゆらと消えた。

「こんなちょろちょろの噴水でも、波は起きてるからさ。だから、蹴っ飛ばして消してみようって思ったんだよね。でも何度蹴っても消えない。新しい波が出来るばっかり」

 あーあ、がっかり。と言いながら楽しそうな顔で彼女はぱちゃ、ぱちゃ、と波風を立てる。何度も。何度も。何度も蹴って蹴って蹴っている。

 そんな彼女を目にした貴女は―――

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今の説明でわかったら僕もびっくりだよ。
だって人の五感なんて芸術でも使わなきゃあいくらか伝わるものでもないでしょう?
だから、僕から聞くのは……ううんと、そうだね。
もっと単純なところから行こうかな。
僕はまだまだ、さ迷うばかり。泳ぐためにはヒレがいる。
ヒレをあなたから貰いたいから……

あのね。
貴女の『過去』を、全部教えてほしいんだ。
今から見て、どうとか。じゃなくて。
あなたが覚えているかどうか。じゃなくて。
貴女の持っている『過去』。
これは僕は、とても非常に、興味があるんだ。
一体何を 持っているの?
なにも もたず しらないくせに
たしかな なにかが そこにある♪
……それが僕は、不思議だよ。
過去は憶測できる。現在は演算できる。
そして未来に確証を持つのは歴史だけだよ。
それがないのに、結果だけを持っているその不自然さが、僕は、とぉぉっても、気になっているんだ。

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