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噴水前の歌広場

【ヨハナ・ゲールマン・ハラタ】冬への扉

「波をね、消してるんだ」

 残暑厳しい季候ももうすぐ終わりを迎えようとしている。なまぬるいばかりであって文句を言っていた噴水も漸くひたひたとしていられる具合になった。りぃりぃと茂みから虫の歌が聞こえる誰そ彼時に感じ入るような様子でいながら足を浸し、俯いて水面を見つめながら彼女はそんなことを唐突に言った。
 ゆらめいた足がぱちと波紋を生み出して、映った青白い顔がゆらゆらと消えた。

「こんなちょろちょろの噴水でも、波は起きてるからさ。だから、蹴っ飛ばして消してみようって思ったんだよね。でも何度蹴っても消えない。新しい波が出来るばっかり」

 あーあ、がっかり。と言いながら楽しそうな顔で彼女はぱちゃ、ぱちゃ、と波風を立てる。何度も。何度も。何度も蹴って蹴って蹴っている。

 そんな彼女を目にした貴女は―――

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ううん、底の方はまっくらだよ。
光なんてなくてもっと暗くてすっごく暗くて、目なんてあってもなくても変わらない真っ暗の黒。
透明な浜辺も綺麗だけど、僕にとって海は黒いものだったな。

……でもね。
そんな海も、どうしようもなく青くなる時があったんだ。
僕の手が届かない無限の青。
人が呼ぶそれは、絶望の青。
やっぱりそこも真っ暗だけど、僕にとっては青いんだ。あすこは。

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