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噴水前の歌広場

【ヨハナ・ゲールマン・ハラタ】冬への扉

「波をね、消してるんだ」

 残暑厳しい季候ももうすぐ終わりを迎えようとしている。なまぬるいばかりであって文句を言っていた噴水も漸くひたひたとしていられる具合になった。りぃりぃと茂みから虫の歌が聞こえる誰そ彼時に感じ入るような様子でいながら足を浸し、俯いて水面を見つめながら彼女はそんなことを唐突に言った。
 ゆらめいた足がぱちと波紋を生み出して、映った青白い顔がゆらゆらと消えた。

「こんなちょろちょろの噴水でも、波は起きてるからさ。だから、蹴っ飛ばして消してみようって思ったんだよね。でも何度蹴っても消えない。新しい波が出来るばっかり」

 あーあ、がっかり。と言いながら楽しそうな顔で彼女はぱちゃ、ぱちゃ、と波風を立てる。何度も。何度も。何度も蹴って蹴って蹴っている。

 そんな彼女を目にした貴女は―――

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そうなんだ。
ヨハナちゃんにとっては、それはとても具体的な形のある行為なんだね。
外形なんて無くなっても、そんなことはどうでもいいんだね。
本質は形なんだ。うん。
まると しかくと さんかくと
ほどいてみたら いっぽんせん♪

(鼻歌を歌いながら、調子っぱずれの曲を奏でている。
最初は電子音華やかなりし舞踏曲、そしてミニマルな繰返し、でもどれも違うなあと首を傾げながら、ああでもないこうでもないとキィボードを爪弾き続けながら、噴水の周りをぐるぐる回っていた)

思えばさ。
僕とあなたは、こうやってお互い楽しい話をしてばっかりだよね。
楽しい話の楽しさが同じだものなので、もうすっかりお互いの具体的な自己紹介をしていないんじゃないかって思うよ。
……だよね、きっと。

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